「試験官の前に座った瞬間、頭が真っ白になってしまった」
「練習では言えたのに、本番では言葉が出てこなかった」
スピーキング試験でこんな経験をした方は多いのではないでしょうか。
緊張してしまうのは、決してあなたが弱いからでも、準備不足だからでもありません。実は、緊張は人間ひいては動物に生まれつき備わった、とても自然な反応です。そして驚くべきことに、適度な緊張はむしろあなたのパフォーマンスを向上させる力を持っているのです。
緊張は生き物が持つ防御システム
まず、緊張とは何なのかを理解しましょう。緊張は、生物学的には「闘争・逃走反応(Fight or Flight Response)」と呼ばれる、危険に対処するための防御メカニズムです。
太古からの生存本能
太古の昔、人類の祖先が野生動物に遭遇したとき、この反応のおかげで素早く逃げたり戦ったりすることができました。脳が「危険だ!」と判断すると、体は瞬時に以下のような変化を起こします。
- 緊張時の身体反応
- 心臓がドキドキして血流が増える → 筋肉に酸素を送る
- 呼吸が早くなる → より多くの酸素を取り込む
- 瞳孔が広がる → より多くの情報を取り込む
- 手のひらに汗をかく → 物を掴みやすくする
- アドレナリンが分泌される → 瞬発力と集中力が高まる
つまり、緊張は「全力を出す準備」をしている証拠なのです。
現代の「危険」とは
現代では猛獣と遭遇することはありませんが、試験という「評価される場面」に直面すると、脳は同じように「これは重要な場面だ!」と判断し、緊張反応を起こします。
特に、初めて会う試験官、初めての試験会場、一度きりのチャンス、といった「未知の要素」が組み合わさると、緊張するのはむしろ当たり前なのです。
何度も話している先生だと緊張しない理由
興味深いことに、普段のレッスンで何度も話している先生とのスピーキング練習では、あまり緊張しないという経験はありませんか?
これは、脳が「この人は安全だ」「この環境は知っている」と学習しているからです。つまり、緊張は「未知のもの」に対する自然な反応であり、誰にでも起こる正常な反応なのです。
適度な緊張がパフォーマンスを向上させる
ここで朗報です。実は、適度な緊張は、あなたのパフォーマンスを向上させる効果があるのです。
ヤーキーズ・ドットソンの法則
心理学には「ヤーキーズ・ドットソンの法則(Yerkes-Dodson's Law)」という有名な法則があります。これは、覚醒度(興奮や緊張の度合い)とパフォーマンスの関係を示したもので、以下のような関係性があることが分かっています。
- 覚醒度とパフォーマンスの関係
- 緊張がなさすぎる:リラックスしすぎて集中できず、パフォーマンスが低い
- 適度な緊張:集中力が高まり、最高のパフォーマンスが発揮できる
- 緊張しすぎる:頭が真っ白になり、パフォーマンスが落ちる
つまり、少しドキドキしている状態こそが、実は一番良いパフォーマンスを出せる状態なのです。
適度な緊張がもたらす効果
適度な緊張状態では、以下のような良い効果が現れます。
- 適度な緊張の効果
- 集中力が高まる:話す内容を頭の中で整理して、より自然にアウトプットができる
- 記憶が活性化される:学んだ表現や語彙を思い出しやすくなる
- 反応速度が上がる:頭の回転が早くなり、質問に対して素早く考えられる
- エネルギーレベルが上がる:声に張りが出て、表現が豊かになる
アスリートが試合前に「良い緊張感」を感じるのと同じように、スピーキング試験でも適度な緊張はあなたの持っている力を最大限に引き出してくれる味方だということを知っておきましょう。
緊張しすぎる人への視点転換
「でも、私は緊張しすぎてしまうタイプで...」という方もいるかもしれません。そんな方に知ってほしいのは、緊張していること自体が悪いのではなく、緊張を「敵」だと思い込んでいることが問題だということです。
「緊張してはいけない」と思えば思うほど、緊張は強くなります。しかし、「これは体が全力を出す準備をしているサインだ」と捉え直すことで、同じドキドキでも、それを力に変えることができるのです。
「I'm nervous.」は言わないほうがいい?
よく、試験官に「How are you?」と尋ねられたときに「I'm nervous.」と答えないほうがいいと言われたりします。これは、「緊張している」という答えがネガティブだから評価を下げるという理由ではありません。
本当の理由は、自己暗示の効果です。自分の口から「I'm nervous.」と言葉にすることで、脳はさらに「緊張しなければならない」というメッセージを受け取り、緊張が強まってしまうのです。
代わりに、「I'm good, thank you.」「I'm ready.」などと答えることで、自分自身にポジティブな暗示をかけることができます。言葉は自分の状態を作り出す力を持っているのです。
緊張を味方にする具体的な方法
では、緊張を味方につけて、最高のパフォーマンスを発揮するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、具体的な方法をご紹介します。
1. 緊張を認める
まず大切なのは、「緊張している」という事実を素直に認めることです。
「緊張してはいけない」と抑え込もうとすると、かえって緊張は強くなります。心の中で「今、緊張しているな。これは自然なことだ」と認めるだけで、不思議と気持ちが落ち着きます。
2. 緊張の意味を書き換える
次に、緊張の意味を書き換えましょう。以下のように、自分に言い聞かせてみてください。
- 緊張をポジティブに捉える言葉
- 「このドキドキは、体が準備万端だというサインだ」
- 「緊張しているということは、この試験を真剣に受けている証拠だ」
- 「このエネルギーを使って、最高のパフォーマンスを出そう」
- 「適度な緊張は、私の能力を最大限に引き出してくれる」
研究によると、このようなポジティブな自己対話は、実際にパフォーマンスを向上させることが分かっています。
3. 深呼吸で自律神経を整える
緊張しすぎていると感じたら、深呼吸が効果的です。特に、以下の「4-7-8呼吸法」がおすすめです。
- 4-7-8呼吸法
- 1. 4秒かけて鼻から息を吸う
- 2. 7秒間息を止める
- 3. 8秒かけて口からゆっくり息を吐く
- 4. これを3〜4回繰り返す
この呼吸法は、副交感神経を活性化させ、過度な緊張を和らげる効果があります。試験室に入る前や、Part 2の準備時間に行うと良いでしょう。
4. 体の緊張をほぐす
緊張すると、無意識に肩に力が入ったり、顔がこわばったりします。待合室で以下のことを試してみましょう。
- 体の緊張をほぐす方法
- 肩を上げて5秒キープ、その後ストンと落とす(3回繰り返す)
- 首をゆっくり左右に回す
- 顔の筋肉を大きく動かす(口を大きく開ける、目を見開くなど)
- 手をグーパーグーパーと開閉する
5. 準備を徹底する
最も効果的な緊張対策は、やはり十分な準備です。
不安の多くは「うまくいかないかもしれない」という恐れから来ています。しかし、十分に練習を重ねていれば、「自分は準備してきた。大丈夫だ」という自信が、過度な緊張を防いでくれます。
- 効果的な準備方法
- 様々なトピックで練習し、自分の「引き出し」を増やす
- 実際の試験と同じ形式で、時間を計って練習する
- 自分の話す様子を録音して、客観的に聞いてみる
- 可能であれば、初めて会う人と練習する機会を作る
6. 試験官は味方だと理解する
多くの受験生は、試験官を「厳しく評価する人」だと思い込んでいますが、実際にはほとんどの試験官はあなたの良い部分を引き出したいと考えています。
試験官の多くは英語教育に携わっている専門家であり、第二言語を学ぶ大変さを理解しています。また、多くの試験官が自分自身も第二言語を学んでいる(または学んだ経験がある)ため、あなたの緊張や不安を共感的に理解できるのです。
試験官が無表情に見えるのは、すべての受験生に公平な環境を提供するためのルールであり、決してあなたを否定的に見ているわけではありません。詳しくは、「スピーキング試験で試験官は何を考えているか?」 の記事もご参照ください。
7. 本番前のルーティンを作る
試験前に毎回同じ行動をする「ルーティン」を作ることも効果的です。
- 本番前のルーティン例
- 試験30分前に好きな音楽を聴く
- 試験10分前に温かい飲み物を飲む
- 試験直前に深呼吸を3回する
- 待合室で自分を励ます言葉を心の中で唱える
アスリートが試合前に決まった動作をするのと同じように、ルーティンは心を落ち着かせ、「準備ができている」という感覚を与えてくれます。
まとめ
緊張は、決してあなたの敵ではありません。それは、人間が生まれ持った自然な防御反応であり、適度な緊張はむしろあなたのパフォーマンスを向上させる力を持っています。
大切なのは、「緊張してはいけない」と戦うのではなく、緊張を認め、その意味を書き換え、味方にすることです。
- まとめ
- 緊張は生き物が持つ自然な防御反応
- 適度な覚醒度で最高のパフォーマンスが出る
- 緊張を認め、ポジティブに捉え直すことが重要
- 「I'm nervous」と口にすると自己暗示で緊張が強まる
- 深呼吸、体の緊張をほぐす、ルーティンなどの具体的な方法を活用する
- 試験官は基本的にあなたの味方であることを理解する
次回のスピーキング試験では、心臓がドキドキし始めたら、こう思ってみてください。「よし、体が準備万端のサインを送ってくれている。このエネルギーを使って、最高のパフォーマンスを出そう!」
緊張を味方につけて、あなたの本当の実力を発揮できることを願っています。
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この記事を書いた人
Hibiki Takahashi
日本語で学ぶIELTS対策専門スクール 『PlusOnePoint(プラスワンポイント)』創設者・代表。『英語ライティングの鬼100則』(明日香出版社)著者。1997年に大阪大学医学部を卒業後、麻酔科専門医として活躍。2012年渡豪時に自身が苦労をした経験から、日本人を対象に IELTS対策のサービスを複数展開。難しい文法・語彙を駆使するのではなく、シンプルな表現とアイデアで論理性・明瞭性のあるライティングを指導している。これまでの利用者は4,000名を超え、Twitterで実施した「12週間チャレンジ」では、わずか4週間で7.0、7週間で7.5など、参加者4名全員が短期間でライティングスコア7.0以上を達成(うち2名は7.5を達成)。「IELTSライティングの鬼」の異名を持つ。オーストラリア在住13年、IELTS 8.5(ライティング 8.0)、CEFR C2。
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