「この政策にはこんなメリットがあるから、実施すべきだ」。アイデア出しをする際、多くの学習者が利点や欠点から発想しようとします。確かに初級者にとっては有効なアプローチですが、利点があることと、それが主張を支持する根拠になることは別問題です。

この記事では、利点・欠点思考と論理的根拠の違いを明確にし、より説得力のある議論を構築するための考え方を具体例とともに解説します。

初級者と上級者のアプローチの違い

IELTSライティング・タスク2でアイデアを考える際、初級者と上級者では発想のプロセスが異なります。

初級者：利点・欠点から考える

初級者がアイデア出しに苦労する場合、利点・欠点から考えることは有効なスタート地点となります。実際、理由（根拠）と利点・欠点は多くの部分でオーバーラップしており、利点から発想した内容が結果的に論理的根拠になることも少なくありません。

初級者のアプローチ
「この政策のメリットは何だろう？」
「どんな良いことがあるだろう？」
「誰が得をするだろう？」
このアプローチは、アイデアが全く浮かばない段階では有効な発想法です。

上級者：主張の根拠から考える

しかし、上級者を目指すのであれば、最初から主張の根拠という観点から考えることをお勧めします。なぜなら、利点と主張の根拠は必ずしも一致しないからです。

上級者のアプローチ
「なぜこの主張が正当化されるのか？」
「この行動を取るべき理由は何か？」
「どのような原則や価値に基づいているのか？」
このアプローチは、より論理的で説得力のある議論につながります。

利点と根拠は必ずしも一致しない

利点（メリット）があることと、それが主張の根拠になることは別問題です。この違いを理解することが、論理的な議論を構築する上で重要です。

利点と根拠の違い

利点と根拠の違い
利点：ある行動から得られる望ましい結果や効果
根拠：その行動が正当化される論理的な理由
利点があっても、それが主張を支持する十分な根拠にならない場合があります。

なぜ利点が根拠にならないことがあるのか

利点が主張の根拠として不十分な場合がある主な理由は以下の通りです。

利点が根拠にならない理由
欠点を無視している：利点だけを見て、それに伴う欠点を考慮していない
価値判断の根拠がない：なぜその利点が重要なのか、優先すべきなのかが説明されていない

具体例①：環境政策

具体的な例を通して、利点と根拠の違いを見てみましょう。

タスク
Some people believe that governments should ban single-use plastics. To what extent do you agree or disagree?
使い捨てプラスチックを政府は禁止すべきだと考える人もいます。あなたはどの程度同意または反対しますか？

利点から考えてしまった議論

利点から考えてしまった議論
Governments should ban single-use plastics because this policy has several benefits. First, it would reduce plastic waste in oceans, which is good for marine life. Second, it would encourage people to use reusable bags and containers, which is environmentally friendly. Third, it would create jobs in the recycling industry.
政府は使い捨てプラスチックを禁止すべきです。なぜなら、この政策にはいくつかの利点があるからです。第一に、海洋のプラスチック廃棄物が減少し、海洋生物にとって良いことです。第二に、人々が再利用可能なバッグや容器を使用するよう促され、環境に優しいです。第三に、リサイクル産業で雇用が創出されます。

この議論では利点を列挙していますが、なぜこれらの利点が禁止を正当化するのか、他の選択肢と比較してなぜ禁止が最善なのかが説明されていません。

根拠から考えた議論（改善例）

根拠から考えた議論
Governments should ban single-use plastics because voluntary measures have proven insufficient to address the scale of plastic pollution. Despite decades of recycling campaigns and voluntary corporate commitments, single-use plastics continue to accumulate in oceans at an alarming rate, threatening marine ecosystems and entering the food chain. Market failures prevent individual consumers and businesses from bearing the full environmental costs of their plastic use, making regulatory intervention necessary. While a ban may impose short-term costs on certain industries, the long-term environmental and health costs of inaction far outweigh these transitional challenges. Alternative materials and reusable systems are now technologically viable and economically feasible at scale, making this an appropriate time for policy intervention.
政府は使い捨てプラスチックを禁止すべきです。なぜなら、自主的な措置ではプラスチック汚染の規模に対処するには不十分であることが証明されているからです。数十年にわたるリサイクルキャンペーンや企業の自主的なコミットメントにもかかわらず、使い捨てプラスチックは驚くべき速度で海洋に蓄積し続け、海洋生態系を脅かし、食物連鎖に侵入しています。市場の失敗により、個々の消費者や企業はプラスチック使用の完全な環境コストを負担しておらず、規制介入が必要となっています。禁止は特定の産業に短期的なコストを課すかもしれませんが、不作為による長期的な環境・健康コストは、これらの移行期の課題をはるかに上回ります。代替材料と再利用可能なシステムは現在、技術的に実行可能であり、大規模に経済的にも実現可能であるため、政策介入の適切な時期となっています。

改善例では、自主的措置の失敗、市場の失敗、コスト便益分析、代替案の実現可能性という論理的根拠に基づいて議論が構成されています。

具体例②：教育政策

もう一つの例を見てみましょう。

タスク
Some people think that university education should be free for all students. To what extent do you agree or disagree?
大学教育はすべての学生に対して無料であるべきだと考える人もいます。あなたはどの程度同意または反対しますか？

利点から考えてしまった議論

利点から考えてしまった議論
University education should be free because it has many advantages. Students would not have to worry about tuition fees, which would reduce their stress. More people from low-income families could attend university, which increases equality. Students could focus on their studies instead of working part-time jobs. This would be beneficial for society as we would have more educated people.
大学教育は無料であるべきです。なぜなら、多くの利点があるからです。学生は授業料を心配する必要がなくなり、ストレスが減少します。低所得家庭からより多くの人が大学に通えるようになり、平等性が高まります。学生はアルバイトをする代わりに勉強に集中できます。これは社会にとって有益であり、より多くの教育を受けた人々を持つことになります。

この議論は（学生にとっての）利点を列挙していますが、お金をどのように賄うのか（財源）、なぜ税金で賄うべきなのか、他の教育投資と比較してなぜ大学を優先すべきなのかといった重要な論点に触れていません。

根拠から考えた議論（改善例）

根拠から考えた議論
University education should be free because higher education creates substantial benefits for society that extend beyond individual gain. When individuals obtain university degrees, society benefits through increased innovation, higher tax revenues, lower crime rates, and better public health outcomes. These are benefits that individual graduates cannot fully capture through their personal earnings alone. The current system, where students bear the full cost of their education through fees and loans, fails to account for these broader social benefits. This market failure justifies public funding to ensure socially optimal levels of education.
大学教育は無料であるべきです。なぜなら、高等教育は個人の利益を超えて社会に実質的な恩恵をもたらすからです。個人が大学の学位を取得すると、社会はイノベーションの増加、税収の増加、犯罪率の低下、公衆衛生の改善という恩恵を受けます。これらは個々の卒業生が個人的な収入だけでは完全には獲得できない恩恵です。学生が授業料とローンを通じて教育の全コストを負担する現在のシステムは、これらのより広範な社会的利益を考慮していません。この市場の失敗が、社会的に最適な教育水準を確保するための公的資金投入を正当化します。

この議論は、社会的利益（正の外部性）と市場の失敗という経済学的根拠に基づいています。

正の外部性とは
ある経済活動が、その活動を行う当事者以外の第三者に、意図せず利益をもたらす現象のこと。教育の場合、本人が利益を得るだけでなく、社会全体も恩恵を受けるため、公的支援が正当化されます。

根拠から考えるアプローチ

では、利点ではなく根拠から考えるには、どのようなアプローチが有効でしょうか。

ステップ①：「なぜ」を問い続ける

利点を思いついたら、さらに「なぜそれが重要なのか」「なぜそれが主張を支持するのか」を問い続けましょう。

「なぜ」を問い続ける例
利点：プラスチック禁止で海洋汚染が減る
↓ なぜそれが重要？
より深い理由：海洋生態系の保護は食物連鎖と人間の健康に影響する
↓ なぜ禁止が必要？
論理的根拠：自主的措置では不十分であることが実証されている

ステップ②：対立する価値を考慮する

利点だけでなく、欠点や対立する価値も考慮し、なぜその主張が全体として正当化されるのかを説明します。

対立する価値の考慮
利点：無料教育で平等性が高まる
欠点：多額の公的資金が必要
↓
論理的根拠：教育の正の外部性により、社会全体の利益が個人の利益を上回る。したがって公的資金投入が正当化される

ステップ③：原則や価値に基づく

個別の利点ではなく、より普遍的な原則や価値に基づいて議論を構築します。

原則や価値に基づく議論
公平性の原則：機会の平等を確保する必要がある
予防原則：深刻な被害のリスクがある場合、事前に行動すべき
費用便益分析：長期的な利益が短期的なコストを上回る
実証的根拠：他の方法が失敗したことが証明されている

まとめ

利点・欠点思考と論理的根拠の違い、そして根拠から考えるアプローチについて解説しました。

IELTSライティング・タスク2では、単に利点を列挙するのではなく、なぜその主張が論理的に正当化されるのかを説明することが求められます。初級者がアイデア出しに苦労する場合、利点・欠点から考えることは有効なスタート地点ですが、上級者を目指すのであれば、最初から主張の根拠という観点から考えることをお勧めします。

利点があることと、それが主張を支持する十分な根拠になることは別問題です。利点を思いついたら、さらに「なぜそれが重要なのか」「なぜそれが主張を支持するのか」を問い続け、対立する価値を考慮し、普遍的な原則や価値に基づいて、因果関係を明確にした議論を構築しましょう。

重要なポイントのまとめ
利点と根拠は必ずしも一致しない
初級者は利点・欠点から、上級者は根拠から考える

Ask the Expert

プラスワンポイントでは、IELTS学習に関する疑問やお悩みを相談できる『無料IELTS学習相談』を実施しています。IELTSの学習方法やスコアアップのコツ、勉強計画の立て方などを、経験豊富なカウンセラーが無料でアドバイスいたします。お気軽にご相談ください。

試験を何回受けてもスコアがなかなか上がらない
自分自身の学習方法が正しいかどうかを知りたい
学習・受講プランの相談に乗ってもらいたい

このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

無料IELTS学習相談

この記事を書いた人

Hibiki Takahashi

日本語で学ぶIELTS対策専門スクール『PlusOnePoint（プラスワンポイント）』創設者・代表。『英語ライティングの鬼100則』（明日香出版社）著者。1997年に大阪大学医学部を卒業後、麻酔科専門医として活躍。2012年渡豪時に自身が苦労をした経験から、日本人を対象に IELTS対策のサービスを複数展開。難しい文法・語彙を駆使するのではなく、シンプルな表現とアイデアで論理性・明瞭性のあるライティングを指導している。これまでの利用者は4,000名を超え、Twitterで実施した「12週間チャレンジ」では、わずか4週間で7.0、7週間で7.5など、参加者4名全員が短期間でライティングスコア7.0以上を達成（うち2名は7.5を達成）。「IELTSライティングの鬼」の異名を持つ。オーストラリア在住13年、IELTS 8.5（ライティング 8.0）、CEFR C2。