木を見て森を見ず
まずは、このエッセイを見てみましょう。
- Task
- University education should be free for everyone, regardless of income. To what extent do you agree or disagree?
- 収入に関係なく、すべての人に大学教育を無料で提供すべきだと思いますか?どの程度同意しますか?
- 受講生の回答例
- ボディ1
- Some may argue against offering free university education to all citizens, as the financial burden would ultimately fall on taxpayers.
- すべての市民に無料の大学教育を提供することに反対する人もいるかもしれません。なぜなら、財政負担は最終的に納税者にかかるからです。
- Providing free education requires substantial funding, which could result in higher taxes or a reallocation of resources from other vital sectors, such as healthcare or infrastructure.
- 無料の教育を提供するには、かなりの資金が必要であり、これは他の重要な分野(例:医療やインフラ)からの資源の再配分や、より高い税金をもたらす可能性があります。
- (後略)
- ボディ2
- However, I believe that making university education accessible at no cost allows individuals to secure better-paying jobs.
- しかし、私は、大学教育を無料で提供することで、個人がより高い給与を得る仕事を確保できるようになると考えています。
- Without financial barriers, individuals are more likely to pursue higher education, develop advanced skills, and gain qualifications, all of which significantly enhance their earning potential.
- 財政的な障壁がないと、個人はより高等教育を追求し、高度なスキルを開発し、資格を取得する可能性が高くなります。これらすべてが、彼らの収入の可能性を大幅に向上させます。
- (後略)
わかりやすいように、ボディ1とボディ2のそれぞれの最初の2文のみ掲載していますが、何か違和感を感じましたでしょうか?
「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、これは細かい部分にこだわりすぎて全体を見失ってしまうことを指します。実は、IELTSのエッセイにおいても同じことが言えます。アイデアを考える際、細かな流れに注目しすぎて、エッセイ全体の流れを見失ってしまうことがよくあるのです。
今回の場合、ボディ2の「大学教育を無料で提供することで、個人がより高い給与を得る仕事を確保できるようになる」というアイデアは、その部分だけ見ると妥当なように見えます。しかし、このアイデアはエッセイ全体の流れとは合っていません。なぜなら、ボディ1で「大学教育を無料で提供するべきではないと考える人の意見」として、「財政負担が納税者にかかる」という点を挙げているからです。
つまり、エッセイの話の流れとして、「納税者の負担が増えてでも大学教育を無料で提供すべきだ」という理由が、個人の収入が増えるという理由になってしまっているのです。乱暴な言い方をすれば、「納税者の負担が増えてでも、大学に行けるようになった人が稼げればいい」というような話になってしまっています。もちろん、大学は若者のためだけではなりませんし、すべての市民が大学に行けることを意味しますが、なるべくならこのようなややこしい話にならないようにする方が良いエッセイに仕上がります。
このように、アイデアを考える際には、細かなアイデアの流れを意識しつつも、エッセイ全体としての大きな流れを見失わないように注意することが重要なのです。
プランニングの重要性
では、エッセイ全体の流れを見失わないためするためには、どのようにすればいいのでしょうか。
答えは、やはり「プランニング」にあります。エッセイを書き始める前にプランニングをしっかりしておくことで、エッセイの構成やアイデアの流れを事前に整理し、全体の流れのおかしなところを事前に修正することができるのです。
プランニングについては、以下の記事でも詳しく解説していますが、アイデアを出すことがプランニングではありません。アイデアを出すのは、プランニングの一部です。プランニングとは、出したアイデアを整理し、エッセイ全体の流れを計画し、どのようなアイデアをどのような順番で書くかを事前に決めておくことを意味します。もちろん、この段階でエッセイ全体の流れがおかしいと気づくことができれば、アイデアを修正する必要があります。
先ほどの回答では、ボディ2のメインアイデアがボディ1と整合性が取れていないという問題がありました。ここでは改めて、ボディ2を中心にプランニングを行ってみましょう。
- プランニング例
- ボディ2
- However, I believe that making university education accessible at no cost would significantly promote social development.
- しかし、私は、大学教育を無料で提供することで、社会の発展が大きく促進されると考えています。
- Many talented individuals are unable to pursue higher education due to financial constraints. By removing these barriers, society can empower individuals to reach their full potential, which would benefit society in the long run.
- 多くの才能ある個人が財政的制約のために高等教育を追求できない状況にあります。これらの障壁を取り除くことで、社会は個人が最大限の可能性に到達するのを支援し、長期的に社会に利益をもたらすことができます。
- Norway, for instance, has successfully achieved a highly educated population and a world-leading equitable society after implementing free university education.
- たとえば、ノルウェーは、無料の大学教育を実施した後、高度な教育を受けた人口と世界をリードする公正な社会を実現しています。
- (後略)
いかがでしょうか。先ほどの回答に比べて、ボディ2のアイデアがボディ1と整合性が取れるようになりました。つまり、「納税者の負担が増えてでも、将来的に社会全体が利益を享受できるから大学教育を無料で提供すべきだ」という全体の流れを作ることができたのです。
このように、事前に全体の流れを意識したプランニングを行うことで、アイデアを論理的に整理しておくことは大変重要なのです。
森を見て木を見て森を見よ
このように、エッセイを書く上では、まず何を聞かれているのかという全体の把握(森を見る)、アイデアの流れを意識しながらボディを作成しつつも(木を見る)、全体の流れを都度チェックする(改めて森を見る)ということを繰り返し行うのです。
- タスク(課題)を確認し、エッセイ全体の流れを考える
- ボディ1においてトピックセンテンスを明確にする
- トピックセンテンスからの流れを意識しつつ展開する
- タスクやイントロからの流れを意識しつつ整合性を確認する
- ボディ2においてトピックセンテンスを明確にする
- トピックセンテンスからの流れを意識しつつ展開する
- タスクやイントロ・ボディ1からの流れを意識しつつ整合性を確認する
- 最後にイントロからコンクルージョンまでの全体の流れが自然かを確認する
このように、首尾一貫性が高くつながりのあるエッセイを書くには、単にアイデアを出すだけでなく、エッセイ全体の流れを常に意識しつつ、アイデアを論理的に整理し、整合性を確認することが重要です。そのために、「細部を見る自分」と「全体を俯瞰する自分」を両方持ち、エッセイ全体の流れを見失わないように注意しましょう。
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この記事を書いた人
Hibiki Takahashi
日本語で学ぶIELTS対策専門スクール 『PlusOnePoint(プラスワンポイント)』創設者・代表。『英語ライティングの鬼100則』(明日香出版社)著者。1997年に大阪大学医学部を卒業後、麻酔科専門医として活躍。2012年渡豪時に自身が苦労をした経験から、日本人を対象に IELTS対策のサービスを複数展開。難しい文法・語彙を駆使するのではなく、シンプルな表現とアイデアで論理性・明瞭性のあるライティングを指導している。これまでの利用者は4,000名を超え、Twitterで実施した「12週間チャレンジ」では、わずか4週間で7.0、7週間で7.5など、参加者4名全員が短期間でライティングスコア7.0以上を達成(うち2名は7.5を達成)。「IELTSライティングの鬼」の異名を持つ。オーストラリア在住13年、IELTS 8.5(ライティング 8.0)、CEFR C2。
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