英語のエッセイにおいて、話の流れをスムーズにする(読み手を驚かせない)ためのテクニックの1つとして「既知の情報から未知の情報へ」の流れを意識することが挙げられます。
この「既知の情報から未知の情報へ」という論理的な進行を意識するだけで、読みやすさを向上させるだけでなく、アイデアを構造的かつ説得力のある形で提示することができます。
既知と未知とは?
まず、「既知の情報」と「未知の情報」とは何かを明確にしておきましょう。
既知の情報(Known Information)
「既知の情報」とは、エッセイの中ですでに言及された情報や、読者がすでに知っている(または容易に理解できる)情報のことです。
- 既知の情報の例
- 前の文で述べた内容
- 一般常識として知られている事実
未知の情報(New Information)
「未知の情報」とは、エッセイの中で初めて導入される新しい概念やアイデアのことです。読者にとって新しい情報であり、理解するために前提となる文脈が必要です。
- 未知の情報の例
- 前の文では言及されていないアイデア
- 読者が予期していない展開
- 新しい概念や専門用語
なぜ既知の情報から始めるのか?
エッセイを書く際、読者に新しいアイデアや情報を紹介する際には、既知の情報から未知の情報への流れを意識することが効果的です。
人間の情報処理の自然な流れ
「既知の情報から未知の情報へ」の流れを意識して書くことが重要である理由は、人が情報を処理する自然な方法に一致しているからにほかなりません。つまり、すでに理解していることを基盤にして次の議論に進むということです。
人間の脳は、新しい情報を処理する際、既存の知識と関連付けることで理解を深めます。既知の情報から始めることで、読者は以下のような利点を得ることができます。
- 既知から未知への流れの利点
- 文脈の理解:読者は前の情報を手がかりに、次の情報を予測できる
- 認知的負担の軽減:一度に処理する新しい情報が少なくなる
- 論理の連続性:議論の流れが途切れず、スムーズに進む
- 説得力の向上:読者を驚かせず、自然に納得させることができる
悪い例:未知の情報を一度に詰め込む
逆に、未知の情報を一度に複数導入してしまうと、読者は混乱します。
- 悪い例
- Technology has improved education because artificial intelligence and virtual reality create immersive learning experiences that enhance neuroplasticity.
- テクノロジーは教育を改善しました。なぜなら、人工知能と仮想現実が、神経可塑性を高める没入型学習体験を生み出すからです。
この文では、「artificial intelligence(人工知能)」「virtual reality(仮想現実)」「immersive learning experiences(没入型学習体験)」「neuroplasticity(神経可塑性)」という4つの新しい概念が一度に導入されています。読者は、これらの概念がどのように関連しているのか理解するのに苦労します。
良い例:段階的に導入する
- 良い例
- Technology has improved education by making learning more interactive and engaging.
- テクノロジーは、学習をよりインタラクティブで魅力的なものにすることで、教育を改善しました。
この文では、「technology(テクノロジー)」という既知の概念から始まり、「interactive(インタラクティブ)」と「engaging(魅力的)」という比較的理解しやすい概念を導入しています。具体的な技術(AIやVRなど)は、次の文で説明することができます。
未知の情報から始まる例
未知の情報から始まる具体的な回答を見てみましょう。
- つながりの悪い展開例
- Some may argue that reading entertainment books is beneficial for children because creativeness improves their critical thinking skills.
- 娯楽本を読むことは子供にとって有益であると主張する人もいます。なぜなら、創造性は批判的思考力を高めるからです。
このようなトピックセンテンスはよく見かけますし、一見すると特に大きな問題はなさそうに見えます。
何が問題なのか?
トピックセンテンスの前半は「娯楽本を読むことは子供にとって有益である」というトピック(トピックの詳細についてはこちら)を紹介しているだけですので問題ありません。
問題は、because以降のメインアイデアの部分です。「creativeness improves their critical thinking skills」には、「creativeness(創造性)」と「critical thinking skills(批判的思考力)」という2つの新しい概念(未知の情報)が一気に導入されています。
読者の立場で考えてみましょう。「reading entertainment books(娯楽本を読むこと)」から、いきなり「creativeness(創造性)」と「critical thinking skills(批判的思考力)」という2つの概念が登場します。以下のような疑問が浮かびます。
- 読者が抱く疑問
- 娯楽本を読むことが、なぜ創造性につながるのか?
- 創造性と批判的思考力はどう関係しているのか?
- なぜいきなり批判的思考力の話になったのか?
「reading entertainment books」が「creativeness」にどのように関連しているのか説明がないままに、説明がどんどん進んでしまっている印象です。
もちろん、頭の回転の速い読者であれば、議論のギャップを想像力で埋めることができますが、エッセイは誰が読んでも議論を追うのに苦労しないのが理想です。
改善例:段階的に導入する
- つながりの良い展開例
- Some may argue that reading entertainment books is beneficial for children because it improves their creativeness.
- 娯楽本を読むことは子供にとって有益であると主張する人もいます。なぜなら、それが彼らの創造性を高めるからです。
このように、トピックセンテンスの後半を「それが彼らの創造性を高めるからです」と修正することで、読者は「reading entertainment books」が「creativeness」にどのように関連しているのか理解しやすくなります。
この文では、以下のような論理の流れができています。
- 改善された論理の流れ
- 既知:reading entertainment books(娯楽本を読むこと)
- ↓
- 未知:improves their creativeness(創造性を高める)
一度に導入する新しい概念は「creativeness(創造性)」だけです。これで読者の認知的負担が大幅に軽減されます。
温存したアイデアはサポートに回す
そうすると、「critical thinking skills」のアイデアはトピックセンテンスから外れることになります。しかし、それはそれでいいのです。なぜなら、この後のサポートセンテンスで「critical thinking skills」について詳しく説明することができるからです。
パラグラフ全体の構成例
- 効果的なパラグラフ構成
- トピックセンテンス:Some may argue that reading entertainment books is beneficial for children because it improves their creativeness.
- 娯楽本を読むことは子供にとって有益であると主張する人もいます。なぜなら、それが彼らの創造性を高めるからです。
- サポートセンテンス1:Fiction books expose children to diverse characters, settings, and storylines that stimulate their imagination.
- フィクションの本は、子供たちを多様なキャラクター、設定、ストーリーに触れさせ、想像力を刺激します。
- サポートセンテンス2:This enhanced creativeness, in turn, improves their critical thinking skills.
- この強化された創造性は、ひいては批判的思考力を向上させます。
- サポートセンテンス3:When children think creatively, they learn to approach problems from multiple perspectives and develop innovative solutions.
- 子供たちが創造的に考えるとき、彼らは複数の視点から問題にアプローチし、革新的な解決策を開発することを学びます。
このように構成することで、以下のような情報の流れができます。
- 情報の流れ
- reading entertainment books(既知)→ creativeness(未知)
- creativeness(既知)→ imagination(未知)
- enhanced creativeness(既知)→ critical thinking skills(未知)
- creative thinking(既知)→ multiple perspectives & innovative solutions(未知)
各文で、前の文で導入した概念(既知)を使って、新しい概念(未知)を一つずつ導入しています。これにより、読者は無理なく議論を追うことができます。
よくある間違い:アイデアの詰め込みすぎ
「トピックセンテンスのあとに何を書いたらいいかわからない」という方は、このようにトピックセンテンスにアイデアを詰め込みすぎている可能性があります。
トピックセンテンスで言いたいことを全部詰め込んでしまうと、どれがメインアイデアかわからなくなるだけでなく、その先のサポートアイデアが尽きてしまう、という事態に陥りやすいのです。
- アイデアを詰め込みすぎた例
- Reading entertainment books is beneficial for children because it improves their creativeness, critical thinking skills, vocabulary, empathy, and concentration.
- 娯楽本を読むことは子供にとって有益です。なぜなら、それが彼らの創造性、批判的思考力、語彙力、共感力、集中力を高めるからです。
このトピックセンテンスには5つものアイデアが詰め込まれています。その結果、以下のような問題が生じます。
- 詰め込みすぎによる問題
- どのアイデアがメインなのかわからない
- サポートセンテンスで何を説明すればいいかわからない
パラグラフ全体での応用
「既知から未知へ」の原則は、トピックセンテンスだけでなく、パラグラフ全体に適用できます。具体的な例を見てみましょう。
悪い例:論理の飛躍がある
- 論理の飛躍がある例
- Social media has changed how people communicate. Dopamine release in the brain affects user behavior. Companies use algorithms to maximize engagement. This leads to addiction.
- ソーシャルメディアは人々のコミュニケーション方法を変えました。脳内のドーパミン放出がユーザーの行動に影響を与えます。企業はエンゲージメントを最大化するためにアルゴリズムを使用します。これは依存症につながります。
この例では、各文が独立しており、論理的なつながりが弱いです。読者は、なぜ突然「ドーパミン」や「アルゴリズム」の話が出てくるのか理解できません。
良い例:既知から未知への連鎖
- スムーズな論理展開の例
- Social media has changed how people communicate by making interactions more frequent and immediate. These frequent interactions trigger dopamine release in the brain, creating a sense of reward. Companies exploit this neurological response by using algorithms that maximize user engagement. This algorithmic manipulation leads to addictive behavior patterns.
- ソーシャルメディアは、やり取りをより頻繁かつ即時的にすることで、人々のコミュニケーション方法を変えました。これらの頻繁なやり取りは、脳内のドーパミン放出を引き起こし、報酬の感覚を生み出します。企業は、ユーザーエンゲージメントを最大化するアルゴリズムを使用することで、この神経学的反応を利用します。このアルゴリズムによる操作は、依存的な行動パターンにつながります。
この改善例では、以下のような論理の連鎖ができています。
- 論理の連鎖
- Social media(既知)→ frequent interactions(未知)
- frequent interactions(既知)→ dopamine release(未知)
- dopamine release / neurological response(既知)→ algorithms(未知)
- algorithmic manipulation(既知)→ addictive behavior(未知)
各文が前の文で導入した概念を引き継ぎ、そこに新しい情報を一つずつ追加しています。これにより、読者は無理なく複雑な議論を理解できます。
まとめ
「既知の情報から未知の情報へ」の原則について解説しました。
この原則は、人間が情報を処理する自然な方法に基づいています。既知の情報を足がかりにして、一度に一つずつ新しい概念を導入することで、読者は無理なく議論を追うことができます。
「既知の情報」から「未知の情報」への流れを意識しながら議論を展開することで、読み手を驚かせることなく、話の流れをフォローしやすいエッセイを書くことができます。
- 重要なポイントのまとめ
- パラグラフ全体で既知→未知の連鎖を意識する
- 既知から未知への流れは、人間の自然な情報処理方法に一致
- 一度に複数の未知の情報を導入すると、読者は混乱する
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この記事を書いた人
Hibiki Takahashi
日本語で学ぶIELTS対策専門スクール 『PlusOnePoint(プラスワンポイント)』創設者・代表。『英語ライティングの鬼100則』(明日香出版社)著者。1997年に大阪大学医学部を卒業後、麻酔科専門医として活躍。2012年渡豪時に自身が苦労をした経験から、日本人を対象に IELTS対策のサービスを複数展開。難しい文法・語彙を駆使するのではなく、シンプルな表現とアイデアで論理性・明瞭性のあるライティングを指導している。これまでの利用者は4,000名を超え、Twitterで実施した「12週間チャレンジ」では、わずか4週間で7.0、7週間で7.5など、参加者4名全員が短期間でライティングスコア7.0以上を達成(うち2名は7.5を達成)。「IELTSライティングの鬼」の異名を持つ。オーストラリア在住13年、IELTS 8.5(ライティング 8.0)、CEFR C2。
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