関係代名詞の制限用法では、which と that のどちらを使ってもよい。学校の英文法では、そう習った方が多いはずです。ところが実際の英語に触れていると、制限用法の which はあまり見かけないことに気づきます。それどころか、コンマなしの which に違和感を持つネイティブもいます。
文法的に間違いではないので神経質になる必要はありませんが、この「学校文法と実際の英語のギャップ」は知っておいて損はありません。この記事では、制限用法の which が実際にどう扱われているのかという背景から、この使い分けルールの意外な成り立ち、そしてIELTSスピーキングでの実践的な付き合い方までを解説します。
実際の英語で制限用法の関係代名詞として選ばれるのは、多くの場合 that です。特に話し言葉ではその傾向が強く、さらに言えば、関係代名詞が目的格の場合は、関係代名詞そのものを省略した形が最も自然に響きます。
「昨日買った本、すごく面白かった」と言いたいとき
The book which I bought yesterday was really interesting.(文法的には正しいが、会話ではあまり聞かない)
The book that I bought yesterday was really interesting.(自然)
The book I bought yesterday was really interesting.(会話では最も自然)
書き言葉にも同じ傾向があります。特にアメリカ英語では「制限用法には that、非制限用法には which」という使い分けが広く推奨されてきました。新聞や出版物のスタイルガイドの多くがこの方針を採っており、Microsoft Word などの文法チェック機能が、コンマなしの which を that に直すよう提案してくることもあります。
一方、イギリス英語の書き言葉では制限用法の which も普通に見られ、「which は誤り」とまでは言えません。ただ、話し言葉に限れば、イギリス英語でも that や省略が優勢です。つまり「制限用法の which は、文法書の上では対等な選択肢だが、実際の英語、特に会話ではあまり出番がない」というのが、実情に近い理解です。
03なぜ制限用法の which に違和感を持つネイティブがいるのか
文法的に正しいのに、なぜ「気になる」ネイティブがいるのでしょうか。理由は大きく2つ考えられます。
ひとつは、アメリカの学校教育や出版の現場で「that は制限用法、which は非制限用法」という使い分けが長く教えられてきたことです。この使い分けに慣れた人にとって、which は「ここからコンマ付きの補足情報が始まりますよ」という合図のように響きます。そこにコンマなしの which が現れると、「そこは that では?」と引っかかるわけです。
もうひとつは、単純に耳にする頻度の問題です。会話で制限用法の which を聞く機会が少ないため、使われると少しかたい、書き言葉的な響きに聞こえることがあります。
この使い分けを決定的に広めたのは、20世紀初頭にイギリスで出版された有名な語法書だと言われています。面白いのは、その提唱のしかたです。「書き手たちが that を制限用法に、which を非制限用法に使うと取り決めれば、文章はずっと分かりやすくなる」と勧める一方で、著者自身が「これが実際の書き手たちの慣行だと言うつもりはない」という趣旨のことも認めていたそうです。つまり、当時の英語の実態を記述したものではなく、「こう統一したら便利ですよ」という提案だったわけです。
さらに皮肉なことに、この提案は本国イギリスではほとんど定着しなかったようです。代わりに熱心に採用したのがアメリカの出版・編集業界で、出版界の標準である The Chicago Manual of Style や報道の AP Stylebook といった主要なスタイルガイドがこぞってこの方針を採り、編集された文章の世界で「規範」として定着していったそうです。イギリス生まれの提案が、海を渡ってアメリカで根付いたという、少しねじれた経緯をたどっているのですね。
まず、アメリカでも「文法」のレベルでは両方OKだということです。that/which ルールはあくまで編集現場のスタイル規範であって、辞書や文法書の規則ではありません。アメリカを代表する辞書の Merriam-Webster も、制限用法の which を標準英語として認めていますし、アメリカで作られた英語学習者向けの文法教材も、制限用法では which と that の両方を文法的に正しいものとして扱っています。つまり「両方OK」は日本独自の教え方ではなく、英語圏の文法記述そのものです。
迷ったら that を使う:制限用法の that はどの英語圏でも自然に響きます。物にも人にも使えるので、先行詞によって迷う場面が減るという実用的な利点もあります。
目的格なら省略も自然:The movie I watched last night のように関係代名詞を省略する形は、会話では最も自然な選択肢です。
人には who も使える:先行詞が人のときは who を選ぶと丁寧で自然です。とくに非制限用法(My sister, who lives in Osaka, ...)では who しか使えません。
which と言ってしまっても言い直さない:文法的に正しい形なので、そのまま話し続けて問題ありません。
採点の観点からも補足しておきます。IELTSスピーキングの採点基準(Band Descriptors)の文法(Grammatical Range and Accuracy)で見られるのは、文構造の幅と正確さです。制限用法の which は文法的に正しい形なので、使ったこと自体がスコアに影響することは考えにくいでしょう。むしろ、関係代名詞を使った複文を安定して組み立てられること自体が、構造の幅を示す材料になります。
なお、非制限用法の「, which」はスピーキングでも大いに活用できます。My hometown, which is famous for its hot springs, is a great place to visit. のように情報を付け足す言い方は、複文構造を自然に見せる定番の形です。こちらは that に置き換えられないので、堂々と which を使いましょう。