英語で話しているとき、言葉が出てこない場面で手のほうが先に動くことがあります。それを見て、自分は語彙が足りないから身振りでごまかしているのだと感じる人は少なくありません。
ところが言語の研究では、話し手の手の動きは語を思い出す作業そのものを助けている可能性が指摘されています。この記事では、身振りと語彙の関係、IELTSの採点基準のどこに関わるのか、やってはいけない使い方、そして練習で身振りをどう扱うと得なのかを整理します。
目次
手が動くのは、話せないことの証拠ではない
なぜ身振りが語彙の想起を助けるのか
IELTSのスピーキングで身振りは採点されるのか
やってはいけない使い方:身振りで単語を置き換える
練習で身振りをどう使うか
手に頼らずに語を引き出す説明の型
よくある質問
まとめ
01 手が動くのは、話せないことの証拠ではない
話しながら手が動くのは、英語が話せないことの証拠ではありません。母語で話しているときにも同じことは起きていて、多くの人は自分の手が動いていることに気づいていません。英語のときだけ気になるのは、うまく言えていないという自覚があるぶん、自分の様子を観察してしまうからです。
この記事の結論
身振りは、語を探す作業の副産物であると同時に、その作業を助けている可能性がある。無理に止めると、探す作業だけが残る。
問題になるのは手が動くこと自体ではなく、手を動かしたまま語を言わずに済ませてしまうことです。この2つは分けて考える必要があります。前者は放っておいてよく、後者は練習で直す対象になります。
手を止める練習には意味が薄い
身振りが多いことを気にして、手を膝に置いたまま話す練習をする人がいます。しかし手を止めることに注意を向けるぶん、話す内容に使える意識が減ります。詰まりを減らしたいのに、詰まりの原因を1つ増やしていることになります。直したいのは手ではなく、語が出てこない場面での逃げ方のほうです。
02 なぜ身振りが語彙の想起を助けるのか
身振りが語の想起を助けるという説明は、1996年に提唱された語彙検索仮説として知られています。話し手が語を探しているあいだに出る手の動きが、その語に結び付いた形や動きの情報を活性化させ、語へのアクセスを早めるという考え方です。丸い、ねじる、広がる、といった形や動作に関わる語で、手が先に動きやすいことが観察されています。
ただしこれが決着した事実というわけではありません。手を動かすことで話し手の作業記憶の負担が減り、そのぶんを語の検索に回せるという説明もあります。どちらの立場でも、手の動きが話し手自身の役に立っているという点は共通しています。聞き手のためだけに身振りをしているのではない、というのがここでの要点です。
説明の立場が2つある
語彙検索仮説:手の動きが、語に結び付いた形や動きの情報を呼び起こして想起を助ける
負担軽減の説明:手を動かすことで頭の中の作業が減り、そのぶんを語の検索に使える
伝えるための身振りと、探しているときの身振り
手の動きは1種類ではありません。大きさや形をなぞる動きは、聞き手に情報を伝える役割がはっきりしています。いっぽう、拍子を取るように小刻みに動く手は、伝える情報をほとんど持っていません。語が出てこない場面で出るのは、多くの場合この後者です。
この区別が役に立つのは、自分の録画を見返すときです。形をなぞる動きが出ているなら、その語は意味の側では思い浮かんでいて、英語の形だけが出てこない状態だと分かります。拍子を取るだけの動きが続いているなら、言いたい内容そのものがまとまっていない可能性があります。前者は語彙の問題、後者は内容を組み立てる問題なので、練習でやることが変わります。
実際の手ごたえとして分かりやすいのは、電話で話しているときにも手が動くという現象です。相手に見えていないのに動くのであれば、その動きは伝えるためだけのものではないことになります。自分が電話中に手を動かしているかどうかを一度観察してみると、この話は納得しやすくなります。
03 IELTSのスピーキングで身振りは採点されるのか
公開されている採点基準(Band Descriptors)に、身振りや姿勢の項目はありません。スピーキングで見られているのは、流暢さと一貫性(Fluency and Coherence)、語彙(Lexical Resource)、文法の幅と正確さ(Grammatical Range and Accuracy)、発音(Pronunciation)の4つです。手をどれだけ動かしたかがそのまま評価に結び付く仕組みにはなっていません。
採点の観点 見られていること 身振りとの関係
Fluency and Coherence 止まらずに話せているか、話の筋が通っているか 詰まりが減るなら間接的に関わる
Lexical Resource 使えた語彙の幅と適切さ 語を言わずに手で済ませると示す材料が減る
Grammatical Range and Accuracy 文構造の幅と正確さ 直接の関係は無い
Pronunciation 聞き取りやすさ、強勢やリズム 直接の関係は無い
この表で注意したいのは2行目です。身振りが評価に影響するとすれば、身振りそのものが見られるからではなく、身振りで済ませたぶんの語彙が示されないからです。評価の材料は音声として出てきた言葉なので、手で示した情報は材料に入りません。
ビデオ通話で受ける形式では手元が映らないことがある
試験官とビデオ通話でつなぐ形式の場合、画面に映るのは上半身の一部で、手元まで入らないことがあります。相手に見えていなくても、自分の語の想起を助けるはたらきは変わらないので、無理に画面内で手を動かそうとする必要はありません。カメラの位置を気にして姿勢を固めるより、いつもどおりに話せる姿勢を選ぶほうが得です。
04 やってはいけない使い方:身振りで単語を置き換える
身振りで直すべき唯一の使い方は、語のかわりに手で示して、そのまま次の文へ進んでしまうことです。試験官には手の動きが見えていますが、評価の材料になるのは言葉のほうです。示せたはずの語彙が記録に残らないまま終わります。
✗
It was, you know, like this... and then we put it in the box.like this を手で示して語を言い切っていない
○
It was a round container with a lid, something like a jar, and then we put it in the box.手は動かしたままでよい。語で言い切る
直し方は、手を止めることではありません。手を動かしながら、その手が表しているものを言葉にすることです。round、flat、twist、spread といった語は、まさに手が表そうとしている情報なので、動きから語を引き出す練習にもなります。
相づちの身振りは別の話
うなずきや、考えているあいだの小さな動きは、語の置き換えではないので気にする必要はありません。日常の会話と同じように振る舞って問題ありません。会話として自然に見えることは、緊張を下げる効果もあります。
スピーキング
連続S7.0は偶然ではなかった
試験を会話として扱うという考え方は、上の記事でも別の角度から扱っています。
05 練習で身振りをどう使うか
練習中は手を自由に使うほうが得です。そのうえで、手が動いた場所を記録すると、自分の語彙の弱点がそのまま見つかります。手が動くのは語を探しているときなので、動いた回数だけ探した語があったということになります。
録画する: スマートフォンで2分の回答を撮る。音声だけでは手の動きが残らない
手が動いた場所を止める: 再生して、手が動いた前後で何を言おうとしていたかを書き出す
言えなかった語を調べる: その場面で必要だった語を辞書で確認し、1語ずつ書き留める
言い換えも用意する: 本番でその語が出てこなかったときのために、説明で言い切る形も作っておく
もう一度話す: 同じ質問に答え直し、同じ場所で手が動くかを見る
この手順のよいところは、弱点の探し方が自分の体に任せられる点です。何が言えなかったかを思い出すのは難しいのですが、手が動いた場所は映像に残ります。パート2の2分間の回答で試すと、1回の録画で3か所から5か所くらい見つかることがあります。
IELTS学習アプリ
スピーキング1問1答
質問に1問ずつ答える形で、録画練習の材料に使えます
06 手に頼らずに語を引き出す説明の型
語が出てこないときの逃げ道を型として持っておくと、手で示して終わることが減ります。使えるのは、上位の語で受けてから用途や形を足していく順番です。1語を思い出せなくても、2文で説明しきれます。
It is a kind of tool that you use for cutting paper.
上位の語(tool)で受けてから、用途を足す
It is a small container, usually made of glass, that people keep jam in.
形と材質と用途の順に足していく
I am not sure what it is called in English, but it is the machine that dries clothes.
語が出ないことを述べたうえで説明に切り替える
3文目のように、語が出てこないこと自体を言葉にしても問題ありません。むしろ、黙って手を動かしている時間より短く済みます。I am not sure what it is called、the word escapes me、something like といった表現を1つ持っておくと、詰まった瞬間に使えます。
説明の順番を決めておく
その場で組み立てようとすると時間がかかるので、足していく順番をあらかじめ決めておきます。次の4つを上から順に足すと、1つも思い出せない語でも2文で説明が終わります。
上位の語で受ける: It is a kind of tool/a kind of place/a kind of feeling
用途を足す: that you use for cutting paper/that people go to when they are ill
形や大きさを足す: It is small and round/It is about the size of a phone
身近な例で寄せる: something like a jar/similar to a library, but smaller
この順番は、手が表そうとしている情報の順番とほぼ同じです。形をなぞる手が出たときは3つ目、用途を示す手が出たときは2つ目が言葉にできていない、と対応させて練習すると、身振りと語がつながっていきます。
つなぎの表現で時間を作る
語を探している時間を無音にしないための表現も用意しておきます。What is the word、let me think、I would say といった短い表現をはさむと、探している時間が会話の一部になります。連発すると耳につくので、1つの回答で1回から2回にとどめるとよいでしょう。
スピーキング
IELTSスピーキング初級者向け:ヘジテーションを減らすステップ式練習法
詰まる時間そのものを短くする練習は、上の記事に段階を分けてまとめてあります。
07 よくある質問
スピーキングで身振りが多いと評価が下がりますか。
公開されている採点基準に身振りや姿勢の項目はありません。見られているのは流暢さと一貫性、語彙、文法の幅と正確さ、発音の4つです。手をどれだけ動かしたかが直接評価に結び付く仕組みにはなっていません。
手を動かさないように練習したほうがよいですか。
その練習の効果は薄いと考えられます。手を止めることに注意を向けるぶん、話す内容に使える意識が減るためです。直す対象は手の動きではなく、手で示したまま語を言わずに次へ進んでしまう癖のほうです。
なぜ言葉が出てこないときに手が動くのですか。
1996年に提唱された語彙検索仮説では、手の動きが語に結び付いた形や動きの情報を活性化させ、語の想起を助けるとされています。作業記憶の負担が減るという別の説明もあり、どちらか一方に決着したわけではありません。共通しているのは、手の動きが話し手自身の役に立っているという点です。
相手に見えない電話でも手が動くのはなぜですか。
身振りが聞き手に伝えるためだけのものではないことを示す例です。相手に見えていないのに動くのであれば、その動きは話し手自身の語の想起に関わっていると考えられます。自分が電話中に手を動かしているかを観察してみると分かりやすくなります。
身振りで単語のかわりをしてしまうのはなぜ問題なのですか。
評価の材料になるのは音声として出てきた言葉だからです。手で示した情報は材料に入らないため、示せたはずの語彙が記録に残りません。手は動かしたままでよいので、その手が表しているものを言葉にするところまで進めます。
ビデオ通話の形式では手を画面に入れたほうがよいですか。
その必要はありません。相手に見えていなくても、自分の語の想起を助けるはたらきは変わらないためです。カメラの位置を気にして姿勢を固めるより、いつもどおりに話せる姿勢を選ぶほうが話しやすくなります。
語が出てこないときは何と言えばよいですか。
語が出てこないこと自体を言葉にして、説明に切り替えます。I am not sure what it is called in English, but it is the machine that dries clothes. のような形です。黙って手を動かしている時間より短く済みますし、説明する力のほうを示せます。
練習で身振りをどう活かせばよいですか。
録画して、手が動いた場所を探します。手が動くのは語を探しているときなので、その場所が語彙の弱点です。前後で何を言おうとしていたかを書き出し、必要だった語と、その語が出てこないときの言い換えを用意します。パート2の2分間で試すと、1回の録画で3か所から5か所ほど見つかることがあります。
08 まとめ
話しながら手が動くのは、語を探している合図であって、話せないことの証拠ではない
1996年の語彙検索仮説では、手の動きが語の想起を助けるとされている。別の説明もある
公開されている採点基準に身振りの項目は無い。関わるとすれば語彙の示し方を通してだけ
直す対象は手ではなく、手で示したまま語を言わずに進んでしまう癖
録画して手が動いた場所を探すと、自分の語彙の弱点がそのまま見つかる
上位の語で受けてから用途や形を足す型を持っておくと、詰まっても2文で説明しきれる
身振りは、直すべき癖ではなく、使える材料です。手が動いた場所には、言いたかったのに言えなかった語が隠れていることが多くあります。次に練習で録画するときは、手の動きを消そうとするのではなく、動いた場所に印を付けるところから始めてみるとよいでしょう。