高校で習う規則に当てはめると、Apple の広告コピー Think different は Think differently になるはずです。動詞を修飾するのは副詞で、副詞には -ly が付く、と教わってきたからです。ところが実際の会話では、Drive safe. や Go slow. のように -ly を付けない言い方をよく耳にします。
では、-ly を付けない言い方は崩れた英語なのでしょうか。IELTSのスピーキングやライティングで使っても差し支えないのでしょうか。
目次
Apple はなぜ Think differently にしなかったのか
-ly を付けない副詞は文法の誤りなのか
日常会話で -ly が付かない表現にはどんなものがあるか
形容詞のままが正しい文と、-ly で意味が変わる語の見分け方
IELTSのスピーキングとライティングでは、どちらの形を使えばよいか
よくある質問
まとめ
01 Apple はなぜ Think differently にしなかったのか
Think different の different は、考え方ではなく、考える中身を指す語として選ばれました。スティーブ・ジョブズは、different を think victory や think beauty と同じように「何を考えるか」を示す名詞のように使いたかったと伝えられています。
このコピーは、広告会社 TBWA\Chiat\Day のロサンゼルス事務所が手がけ、1997年から2002年まで使われました。制作の過程では Think differently も候補に挙がっていましたが、採用されませんでした。ジョブズは、differently では自分にとって同じ意味にならないと話し、think big のような口語らしい響きにしたかったとされています。
形
different の役割
伝わる意味
Think differently.
副詞として think を修飾する
考え方を変えなさい。考える「方法」の話
Think different.
think の目的語のように「考える対象」を示す
人と違うものを思い描け。考える「中身」の話
think big(大きく考える)や think positive(前向きに考える)も、think のうしろに形容詞の形がそのまま続く口語表現です。Think different はこの型に沿っているので、英語話者の耳には崩れた英語というより、短く言い切った標語として響きます。
広告のコピーは、短さと響きを優先して文法の型から外れることがあります。Think different は、そのうえで differently とは違う意味も持たせたコピーです。
02 -ly を付けない副詞は文法の誤りなのか
-ly を付けない副詞は、文法の誤りではありません。形容詞と同じ形のまま副詞としてはたらく語は flat adverb と呼ばれ、日本語では単純形副詞や無変化副詞と呼ばれることがあります。safe、slow、quick、easy、tight などがその例です。
Merriam-Webster は、drive safe と drive safely はどちらも正しいと説明しています。同辞典によれば、「副詞には -ly が付く」という規則は18世紀の文法家たちが広めたもので、それ以前の英語では -ly の付かない副詞がいまより広く使われていました。
フォーマルかどうかで分布が分かれる
誤りではない一方で、どこでも同じように使われるわけではありません。Oxford Learner's Dictionaries は、slow を副詞として使うのは、くだけた言葉や道路標識などに見られる用法だと説明しています。英語圏には DRIVE SLOW や GO SLOW と書かれた道路標識もあり、短く書きたい掲示ではこの形がよく見られます。
○
Please drive slowly near the school.書き言葉でも話し言葉でも使える形
△
Please drive slow near the school.会話や標識では自然。改まった文章では slowly のほうが無難
学校で習う規則と、実際の英語の使われ方がずれている例は、ほかにもあります。the reason is because もその1つで、話し言葉で使われ続けてきた経緯を別の記事で解説しています。
スピーキング
The reason is because は間違い?話し言葉で that より because が選ばれる理由
03 日常会話で -ly が付かない表現にはどんなものがあるか
会話で -ly が落ちやすいのは、別れ際のあいさつ、急ぎの呼びかけ、相手への頼みごとのように、短く言い切りたい場面です。多くは命令文の、数語で終わる短い形です。
会話でよく聞く形
-ly を付けた形
使われる場面
Drive safe!
Drive safely.
車で帰る人を見送るときのあいさつ。「気をつけて帰ってね」
Come quick!
Come quickly.
急いで来てほしいときの呼びかけ
Walk slower.
Walk more slowly.
一緒に歩いている相手に、ペースを落としてほしいと頼む
Hold tight.
Hold on tightly.
乗り物の中などで、しっかりつかまっていてほしいとき
Go easy on me.
(-ly の形では言わない)
「お手柔らかに」。go easy on 人 でひとまとまりの決まり文句
Take it easy.
(-ly の形では言わない)
「無理しないでね」「落ち着いて」
表の上の4つは、-ly を付けた形も普通に使えます。会話で -ly なしが好まれるのは、音節が減って言いやすく、呼びかけとして勢いが出るからでしょう。Walk slower. のように比較級になる場合も、more slowly より1語短く済みます。
下の2つは事情が違います。Go easy on me. や Take it easy. は、easy のまま決まった言い回しになっているので、easily に置き換えると意味が通らなくなります。flat adverb の中には、-ly の形と入れ替えられないものもあると覚えておきましょう。
聞き取りで戸惑わないために
リスニングの音声や映画、ドラマで Drive safe. に近い形が聞こえても、聞き間違いや言い間違いを疑う必要はありません。形容詞の形でも、動詞のうしろにあれば「どのように」を表しているかもしれない、と考えると意味をたどりやすくなります。
04 形容詞のままが正しい文と、-ly で意味が変わる語の見分け方
-ly を付けるかどうかで迷う文の中には、flat adverb とは別の理由で形容詞が選ばれているものがあります。また、-ly を付けると別の意味になる語もあり、ここを取り違えると伝えたい内容が変わってしまいます。
4-1 主語の状態を説明している文に -ly を付けてしまう
feel、look、sound、smell のように、主語がどういう状態かを説明する動詞のうしろには、形容詞が来ます。ここはもともと形容詞が入る位置で、副詞の -ly が落ちたわけでもありません。-ly の規則を当てはめすぎると、かえって不自然になります。
✗
This soup smells deliciously.スープの状態を言いたいのに、副詞にしている
○
This soup smells delicious.delicious がスープの状態を説明している
They arrived safe. と They arrived safely. は、どちらも使われます。safe は「無事な状態で着いた」と到着したときの人の様子を、safely は「無事に到着した」と到着の仕方を表します。実際の意味の差は小さく、会話ではどちらを使っても問題ありません。
4-2 -ly を付けた形を、同じ意味の副詞だと思う
hard と hardly のように、-ly を付けると意味が離れてしまう語があります。この組では -ly を付けない形が副詞の基本で、-ly の形は別の語として覚えておく必要があります。
✗
I studied hardly for the test.「一生懸命勉強した」のつもりが、「ほとんど勉強しなかった」に近い意味になる
○
I studied hard for the test.hard がそのまま「一生懸命に」を表す
-ly なしの副詞
-ly を付けた副詞
例文
hard(一生懸命に、激しく)
hardly(ほとんど〜ない)
It rained hard. / It hardly rained.
late(遅くに)
lately(最近)
I got home late. / I haven't been sleeping well lately.
high(高く)
highly(非常に、高く評価して)
The bird flew high. / The course is highly recommended.
free(無料で)
freely(自由に)
Children can travel free. / You can speak freely here.
スピーキングで自分の努力や最近の習慣を話すときは、この組を取り違えると内容そのものが変わってしまいます。I've been working hard lately. のように、hard と lately を1文で使い分けられるか確かめておくと安心です。
05 IELTSのスピーキングとライティングでは、どちらの形を使えばよいか
スピーキングでは会話として自然な範囲で -ly なしの形を使っても差し支えなく、ライティングでは -ly を付けた形を選ぶのが無難です。IELTS公式は個々の副詞の形について採点の扱いを示していません。
技能
おすすめの形
理由
スピーキング
どちらでもよい。Drive safe. のような決まった言い回しは -ly なしのままで
会話で実際に使われている形で、無理に -ly を付けるとかえって硬く聞こえることがある
ライティング
-ly を付けた形(more slowly、differently など)
くだけた言葉として分類される用法を、アカデミックな文体のエッセイで使う利点が小さい
スピーキングでの扱い
Part 1 で家族や友人との会話を再現するときなど、Drive safe. や Take it easy. をそのまま引用するのは自然です。一方、Part 3 で社会的な話題を論じるときは、Governments need to act quickly. のように -ly の形を使っておくと、話し言葉としても落ち着いた響きになります。
ライティングでの扱い
エッセイでは、変化の速さや行動の仕方を述べる文で副詞がよく必要になります。ここは -ly の形で書いておきましょう。
△
Cities are growing quicker than their transport systems.誤りではないが、会話寄りの響きが残る
○
Cities are growing more quickly than their transport systems.アカデミックな文章に合う形
広告のコピーをエッセイに持ち込みたくなる場面もあるかもしれません。Governments should think different about public transport. と書くと、コピーの引用ではなく -ly の付け忘れだと読まれる可能性があります。エッセイでは think differently と書くのが確実です。
TOEICや英検の文法問題でも、形容詞と副詞を選ばせる設問では、教科書どおりの -ly の形が答えとして想定されていることが多いでしょう。
IELTS学習アプリ
表現ニュアンス比較
drive safe と drive safely のように、気になる複数の表現を入力すると、意味や使われる場面の違いをAIが解説します
06 よくある質問
Drive safe は文法的に間違いですか
間違いではありません。Merriam-Webster は drive safe と drive safely のどちらも正しいと説明しています。safe は形容詞と同じ形のまま副詞としてはたらく flat adverb で、会話のあいさつとして広く使われています。
Think different はなぜ differently ではないのですか
スティーブ・ジョブズが、different を think victory や think beauty のように「何を考えるか」を示す語として使いたかったためだと伝えられています。制作の過程で Think differently も検討されましたが、ジョブズは同じ意味にならないと考え、think big のような口語の響きを選んだとされています。
IELTSのライティングで slow や quick を副詞として使ってもよいですか
誤りではありませんが、slowly や more quickly のように -ly の形で書くのが無難です。Oxford Learner's Dictionaries は副詞の slow をくだけた言葉や道路標識に見られる用法としており、アカデミックな文体のエッセイでは -ly の形のほうが文章に合います。
スピーキングで Drive safe や Take it easy を使うとスコアに影響しますか
IELTS公式は個々の副詞の形について採点の扱いを示していないため、断定はできません。会話で実際に使われている形なので、この形を使ったことだけを理由に避ける必要はありません。Part 3 で社会的な話題を論じるときは、-ly の形を使うと落ち着いた響きになります。
-ly を付けてはいけない副詞はありますか
-ly を付けると意味が変わる語があります。hard(一生懸命に)と hardly(ほとんど〜ない)、late(遅くに)と lately(最近)、high(高く)と highly(非常に)、free(無料で)と freely(自由に)の組です。I studied hardly. と言うと、一生懸命勉強したという意味にはなりません。
This soup smells deliciously. はなぜ不自然なのですか
smell や feel、look、sound のうしろには、主語の状態を説明する形容詞が来るからです。ここは副詞の -ly を省略しているのではなく、もともと形容詞が入る位置なので、This soup smells delicious. が自然な形になります。
-ly の付かない副詞は、最近の英語の崩れなのですか
古くからある形です。Merriam-Webster によれば、副詞には -ly を付けるという規則は18世紀の文法家たちが広めたもので、それ以前は -ly の付かない副詞がいまより広く使われていました。
07 まとめ
Think different. は広告のコピーとして意図して選ばれた形で、Drive safe. は会話で普通に使われている言い方です。形容詞と同じ形の副詞は古くから使われてきたもので、会話や標識、広告のように短く言い切りたい場面で選ばれています。会話で耳にしたときは言い間違いと決めつけずに受け取り、エッセイでは -ly を付けた形を選んでおくと、場面に合った書き方になります。
Think different は、different を「何を考えるか」を示す語として使うために選ばれたコピーで、differently とは意味が違う
形容詞と同じ形の副詞(flat adverb)は文法の誤りではなく、drive safe も drive safely も正しい
-ly なしの形は、会話のあいさつや呼びかけ、道路標識のようなくだけた場面で使われやすい
Go easy on me. や Take it easy. のように、-ly の形に置き換えられない決まり文句もある
feel、look、smell のうしろは主語の状態を説明する形容詞の位置で、-ly を付けると不自然になる
hard と hardly、late と lately のように、-ly を付けると意味が変わる語を取り違えない
スピーキングでは場面に合わせてどちらでもよく、ライティングでは -ly を付けた形が無難