今から何を勉強すればいいですか、というご相談をいただいたとき、最初に伺うのは試験日です。残り3か月の方と残り1か月の方では、目標スコアが同じでも取り組む勉強の種類が違います。3か月あれば弱点を見つけて土台から作り直せますが、1か月では、いま持っている力を本番で落とさずに出すほうへ切り替えます。この記事では、その2つの時期で何が入れ替わるのか、時期に合わない勉強を続けると何が起きるのかを見ていきます。
01日数で変わるのは勉強量ではなく勉強の種類
残り3か月と残り1か月の違いは、勉強できる量が3倍あるかどうかではありません。手をつけられる対象そのものが入れ替わります。3か月ある人は、英語力そのものを押し上げる勉強ができます。1か月しかない人は、いまの英語力と本番のスコアのあいだにある差を回収するほうへ重心を移します。この2つは、同じ「IELTSの勉強」という言葉で呼ばれていても中身が別です。
入れ替わる理由は、取り組む対象によって変化が出るまでの時間が違うからです。覚えた語彙を本番で使えるようになるまでには数週間から数か月かかりますが、時間配分の組み直しは数日から数週間で結果に出ます。残り日数が短くなるほど、後者の比率を上げることになります。
| 取り組む対象 | 変化が出るまでの目安 | 残り1か月で扱えるか |
| 語彙と、語の組み合わせ方 | 数か月 | 頻出テーマに絞れば扱える |
| 発音・イントネーション | 数か月 | 個別の音より、相手に通じにくい語の言い直しに絞る |
| 文法の正確さ | 数週間から数か月 | 繰り返しているミス1つか2つなら扱える |
| 設問形式ごとの解き方 | 数週間 | 扱える |
| 時間配分 | 数日から数週間 | 扱える |
| タスクや設問文の読み取り | 数日から数週間 | 扱える |
| 試験当日の手順 | 数日 | 扱える |
この目安は、当校が指導経験をもとに置いた実践上の値です。IELTSがこうした期間を定めているわけではありませんし、週に取れる時間や現在のスコアによっても動きます。それでも、表の上にある項目ほど時間がかかり、下にある項目ほど短い期間で結果に出るという順番は、多くの学習者に共通しています。
週に十分な時間を取れるなら、3か月あればこの表の上から下まで手を入れられます。1か月しかない人は、下半分に資源を集中させることになります。上半分に投じた時間が本番に間に合うかどうかで、手をつける範囲を決めます。
02残り3か月:弱点を見つけて作り直す
3か月ある時期にやることは、弱点の発見と、土台の作り直しです。この2つは時間がかかるので、直前期に回すと間に合いません。逆に言えば、3か月ある人ほど、腰を据えて取り組める勉強がここに集まっています。
2-1 弱点を原因のレベルまで特定する
リーディングが弱い、という把握のしかたでは、次に何をやるかが決まりません。同じ不正解でも、原因が違えば対策が変わります。模擬試験を1回通したら、間違えた設問を次のように分けてみましょう。
- 語彙が分からなかった:本文または設問の語の意味が取れなかった
- 時間が足りなかった:見れば解けたが、そこまでたどり着かなかった
- 設問の読み違い:問われている内容を取り違えた
- 設問形式に慣れていない:解き方の手順が分からなかった
語彙が原因の割合が高いなら、そこは数か月かけて積む対象です。3か月あるうちに始めておけば本番に間に合いますが、1か月前から始めると、使えるようになる前に試験日が来ます。時間が足りないことが原因なら、これは直前期でも動かせるので、後半に回して構いません。原因まで特定することで、いま着手すべきものと後回しにできるものが分かれます。
リスニングも同じで、聞き取れなかった箇所を書き起こして原因を分けます。知らない語だったのか、知っている語が音として結びつかなかったのか、設問と本文の対応を見失ったのかで、次にやることが変わります。
2-2 ライティングは1本を2回書く
3か月ある時期のライティングは、書く、添削を受ける、同じタスクを書き直す、という流れを繰り返す形が効果的です。書きっぱなしにすると、指摘された点が次のタスクでも同じように出ます。同じタスクで書き直すと、指摘のどこを直せたかを、その回のうちに確認できます。
ライティングは全体で60分あり、タスク2にはそのうち40分程度を配分するのが公式に示されている目安です。3か月ある時期は、この40分という制約をいったん外して、時間をかけて構成から練り直す回を作っても構いません。時間内に収める練習は、後半に回せます。
2-3 スピーキングは録音を残す
発音や流暢さは、全体を底上げしようとすると数週間では大きく動きません。だからこそ3か月ある時期に取りかかる価値があります。毎回の練習を録音して残しておくと、1か月後に聞き直したときに、自分の話し方のどこが変わっていないかが分かります。詰まる箇所、繰り返している言い回し、聞き取りにくい語は、録音を並べると見えてきます。
アイデアの出し方も、この時期に広げておきたいものです。Part 3では抽象的な質問が続くので、賛成と反対の両方から理由を出す練習を重ねておくと、本番で沈黙する時間が減ります。
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運用語彙強化
意味が分かる語を、自分で使える語に変えていくためのトレーニングです。数か月かけて積む対象なので、時間に余裕がある時期に始めておくと本番に間に合います。
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03残り1か月:本番で落としている点を回収する
残り1か月でやることは、いまの英語力に対して本番のスコアが下振れしている分を取り返す作業です。新しいものを大量に増やす時期ではありません。時間切れで解けなかった設問、毎回同じところで出る文法のミス、質問の意味は分かったのに出てこなかった答えは、いずれも英語力の不足というより取りこぼしです。ここは1か月でも動きます。
3-1 繰り返しているミスを一覧にする
ライティングで直前期にやることは、新しい構文を増やすことよりも、自分が毎回やっているミスを減らすことです。過去に受けた添削を並べて、指摘の内容を頻度順に書き出してみましょう。冠詞、単複、時制、主語と述語の対応のように、同じ指摘が何度も出てくるはずです。
一覧ができたら、上位の2つか3つに絞って、書き終わりの見直しでそこだけを確認します。全部を同時に直そうとすると、書きながら意識が散って内容のほうが薄くなります。1か月という期間で狙えるのは、頻度の高いミスを数種類減らすところまでです。
3-2 何を聞かれても答えられる状態を作る
スピーキングの直前期は、話す力を上げるより、答えが出てこない場面をなくすほうに時間を使います。頻出テーマを一巡し、それぞれに自分の経験や理由をいくつか用意しておくと、本番で内容を探す時間が減ります。用意するのは丸暗記した回答ではなく、話し始めるための切り口です。
あわせて、詰まったときの立て直し方を決めておきましょう。知っている語が出てこないときにどう言い換えるか、質問の意味が取れなかったときにどう聞き返すかは、手順として持っておけば本番でそのまま使えます。Part 2は1分の準備時間のあとに1分から2分話す形なので、その1分で何を書き出すかも決めておくと、話し出しの迷いがなくなります。
3-3 本番と同じ条件で通す
直前期は、部分練習より通し練習の比率を上げる時期です。リーディングを1つのパッセージだけ解くのと、3つを続けて60分で解くのとでは、後半の集中の落ち方が違います。時間配分の失敗は、通しでやらないと再現しません。
通したあとに見るのは、正答数だけではありません。どこで時間を使いすぎたか、どの設問を捨てる判断ができなかったかまで確認すると、次の1回で修正できます。残り1か月で伸ばせるのは、この修正の積み重ねです。
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リスニングとリーディングの結果を記録して、間違えた原因の内訳を残せます。直前期に取りこぼしを回収するとき、どこで落としているかを数字で確認できます。
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04時期に合わない勉強を続けると何が起きるか
ここまでの整理から、2つの取り違えが見えてきます。残り3か月ある人が直前期の勉強をしてしまう形と、残り1か月しかない人が3か月前の勉強を続けてしまう形です。どちらも真面目に取り組んでいるほど起こりやすく、本人には失敗している自覚が出にくいという共通点があります。
4-1 残り3か月なのに、直前期の勉強をしている
✗
3か月前から本番形式の演習ばかり回す毎回のスコアの上下を確認するだけで終わり、落としている原因には手が入らない
○
3か月前は原因の特定と作り直しに時間を使う本番形式の演習は後半に回し、直前期の主役にする
本番形式の演習は、やっている実感が得られやすい勉強です。時間を測って解き、点数が出て、記録が残ります。ところが、3か月前の時点でこれを繰り返しても、点数が動く材料をまだ仕込んでいないので、同じあたりの数字が並ぶだけになります。伸びない期間が続くと、自分には向いていないという結論に流れやすくなります。
この時期に見るのは、スコアそのものより原因です。模擬試験は現在地を知るために使い、そこから先の時間は、語彙、文法、読み取り、発音のように時間のかかる対象へ回すほうが、3か月後の結果につながります。
4-2 残り1か月なのに、基礎の作り直しをしている
✗
1か月前に単語帳を最初のページから始める覚えた語を本番で使えるようになる前に試験日が来る
○
1か月前は頻出テーマの語に絞り、すでに書ける表現の精度を上げる本番までに使える形になっているものから手を入れる
残り1か月で基礎からやり直したくなるのは、模擬試験で目標に届かず、原因を英語力の不足だと感じるからです。診断としては正しいことも多いのですが、処方としては時期に合っていません。1か月で広い範囲の語彙を増やしても、本番で使える形になる前に試験日を迎えます。
直前期に語彙を扱うなら、範囲を絞ります。これまでの練習でよく扱ったテーマや、自分の弱点に関係する語に絞り、意味が分かる語を使える形に変えるところまでで止めます。ゼロから覚え直す語は、この時期には向いていません。
4-3 どちらの取り違えも、判断の基準が抜けている
2つの取り違えは反対の方向に見えますが、原因は同じです。何を勉強するかを、教材や気分や、周りの人がやっていることで決めているという点です。残り日数という基準を先に置くと、どちらの形にもなりにくくなります。
05技能別に見ると何が入れ替わるか
技能ごとに並べると、同じ技能の勉強でも、残り3か月と残り1か月で中身が入れ替わることがはっきりします。次の表は、その対応をまとめたものです。
| 技能 | 残り3か月にやること | 残り1か月にやること |
| リスニング | 聞き取れなかった箇所を書き起こし、語彙・音・設問対応のどれが原因かを分ける | 設問の先読みの手順を固め、聞き逃したあとの立て直し方を決める |
| リーディング | 語彙を増やし、設問形式ごとの解き方を身につける | 3つのパッセージへの時間の配り方と、捨てる設問の決め方を固める |
| ライティング | 書く、添削を受ける、同じタスクを書き直す、を繰り返す | 繰り返しているミスを一覧にし、見直しでそこだけを確認する |
| スピーキング | 発音、流暢さ、アイデアの出し方を、録音を残しながら改善する | 頻出テーマを一巡し、詰まったときの言い換えを用意する |
表の左と右は、対立しているわけではありません。左をやったから右が要らなくなるのではなく、左に取り組んだ結果を本番で出しきるために右があります。3か月の計画を立てるときは、この表を左から右へ進む順番として読むと、最後の4週に何を残すかが決まります。
語数と時間の制約は、どちらの時期にも共通する
タスク1は150語以上、タスク2は250語以上という語数の下限と、ライティング全体が60分という制約は、時期に関係なく変わりません。3か月ある時期に構成を練り直す回を作るとしても、最終的には制限時間の中で下限を超える回答を書けるところまで持っていく必要があります。制限を外した練習は、期間に余裕があるうちだけに限ります。
06試験までの日数から勉強方法を決める手順
勉強の中身を決める起点は、教材でも気分でもなく、試験日までの日数です。今から何を勉強すればいいですか、という問いの前に、試験まであと何週間あるかを数えるところから始めます。
| ステップ | すること | 確かめること |
| 1 | 試験日までの週数を数える | スコアの提出期限はいつか。もう一度受ける余地が残っているか |
| 2 | 直近の模擬試験で、技能ごとの現在地と目標の差を出す | 差が大きいのはどの技能か。落としている原因は何か |
| 3 | 残り週数で方針を決める | 余裕があるなら原因の特定と作り直し、少ないなら取りこぼしの回収 |
| 4 | 週の終わりに1度だけ見直す | 方針を変えるのは週単位。日ごとに変えると、どちらも中途半端になる |
切り替えの目安は残り6週前後
作り直しから回収へ切り替える目安として、残り6週前後を置くと組み立てやすくなります。新しく覚えた語や表現を本番で使えるようになるまでに数週間かかるため、6週を切ってから始めたものは本番に届きにくくなるからです。この6週という数字は、当校が指導経験から置いた目安であって、IELTSが定めているものではありません。
週に取れる時間が多い方や、伸ばしたい技能が1つに絞れている方は、もう少し短くても作り直しが間に合います。逆に、週に数時間しか取れないなら、6週より前の段階で回収に切り替えるほうが現実的です。日数だけで一律に決まるものではなく、日数と週あたりの時間の両方で見ます。
切り替えの時期は、技能ごとにずらしても構いません。差が大きい技能だけ作り直しの期間を長めに残し、目標に近い技能は早めに回収へ移す組み方もできます。オーバーオールは4技能の平均を0.5刻みに丸めた値なので、全部を同じ速度で進める必要はありません。
07よくある質問
残り2か月のときは、どちらの進め方をすればよいですか
切り替えの目安として置いている残り6週より前なので、前半は作り直し、後半は回収という形になります。残り2か月なら、最初の2週から3週で原因の特定と土台の補強を進め、残り6週前後になったところで本番形式の演習と取りこぼしの回収へ移す組み立てが立てやすくなります。週に取れる時間が少ない場合は、切り替えをもう少し早めます。
残り1か月でも単語の勉強は続けたほうがよいですか
範囲を絞れば続ける意味があります。受験するモジュールで出やすいテーマの語に限り、意味が分かる語を使える形に変えるところまでで止めます。単語帳を最初のページからやり直すような進め方は、覚えた語を使えるようになる前に試験日を迎えるため、この時期には向いていません。
残り3か月の時期に本番形式の模擬試験を受けるのは早すぎますか
早すぎることはありません。ただし目的が違います。3か月ある時期の模擬試験は、現在地を知り、落としている原因を分けるために使います。点数を上げるための演習として毎週繰り返すと、原因に手が入らないまま同じあたりの数字が並ぶことになります。演習量を増やす目安は残り6週前後ですが、週に取れる時間や弱点によっては前倒しします。
残り1か月で新しい参考書を買うのは間違いですか
間違いと決まっているわけではありませんが、選び方が変わります。この時期に足すなら、いま手をつけている弱点に直接対応するものか、本番形式の演習を増やすためのものに限ります。新しい範囲を最初から積み上げる種類の教材は、定着する前に試験日が来ます。
3か月あっても週に数時間しか取れません。それでも作り直しから始めますか
日数と週あたりの時間の両方で見ます。3か月あっても週に数時間なら、総量としては短期の学習に近くなるので、切り替えを6週より前に置くほうが現実的です。作り直しに使う範囲も、差が大きい技能1つに絞ると、限られた時間でも結果まで届きやすくなります。
切り替えの時期は、技能ごとに変えてもよいですか
変えて構いません。目標との差が大きい技能だけ作り直しの期間を長く残し、目標に近い技能は早めに回収へ移す組み方ができます。オーバーオールは4技能の平均を0.5刻みに丸めた値なので、全部を同じ速度で進める必要はありません。
直前期に伸びやすいのはどの技能ですか
技能で分かれるというより、取り組む対象で分かれます。時間配分、設問形式ごとの解き方、タスクや設問文の読み取り、試験当日の手順は、数日から数週間で結果に出ます。語彙や発音のように数か月かかる対象は、直前期に始めても、本番までに使える形になりにくくなります。
08まとめ
今から何を勉強すればいいですか、という問いには、試験日を抜きにした答えがありません。残り3か月なら弱点を見つけて土台を作り直す時期であり、残り1か月なら、いまの力を本番で落とさずに出す時期です。この2つを取り違えると、時間をかけているのにスコアが上がらない期間が生まれます。
- 残り日数で変わるのは勉強の量ではなく、手をつけられる対象の種類
- 語彙や発音の底上げは数か月、時間配分や設問形式は数日から数週間で結果に出る
- 残り3か月は、原因の特定と作り直しに時間を使う
- 残り1か月は、繰り返しているミスと時間切れの取りこぼしを回収する
- 切り替えの目安は残り6週前後。週に取れる時間が少ないなら早める
- 技能ごとに切り替え時期をずらしてよい
まだ日数が残っている時期にいるなら、早く始めるほど選べる手が多くなります。すでに間に合わない時期に入っているなら、早く始めていればという話はいったん脇に置いて、残っている日数でできることに集中するほうが、当日のスコアは高くなります。どちらの時期にいるかを先に決めてから、今日の勉強を選びましょう。