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IELTSスピーキングは暗記で乗り切れるか:採点基準と試験官の進め方から考える

執筆:高橋 響 公開日:

出題が噂されているPart 2の問題を全部集めて、1問ずつ回答を用意し、丸ごと覚えてしまう。試験までの時間が限られているほど、この方法は魅力的に見えます。

ただ、IELTSのスピーキングには、覚えた回答をそのまま出せる場所と、そうでない場所があります。この違いは試験官の力量ではなく、試験の進め方そのものから来ています。この記事では、公開されている採点基準と試験官向けの指示をもとに、暗記した回答が試験のどこまで通用し、どこから通用しなくなるのかを確かめます。

01Part 2の問題を全部覚えるのは、なぜ現実的でないのか

用意した回答が届かない場所が、試験の中にあります。覚えきれる量かどうかは、そのあとの話です。

まず量を見ておきます。プラスワンポイントが2026年5月から8月の期のトピックとして掲載した一覧では、Part 1が58テーマ、Part 2が92問ありました(2026年9月3日時点)。Part 1は1テーマにつき2問から3問聞かれるので、58テーマなら116問から174問という計算になります。Part 2の92問はそれぞれ1枚のCue Cardで、1分から2分ぶん話す内容が必要です。

ここまでなら、時間さえかければ覚えきれると考える人もいるかもしれません。実際、Part 1とPart 2は事前に想定したテーマやCue Cardに沿って進むので、準備した内容を使える場面があります。

その届かない場所がPart 3です。Part 3の質問は、Part 2で引いたトピックにつながるように試験官が組み立てるので、Cue Cardの一覧を覚えても、そのまま予測することはできません。92問ぶんのスピーチを覚えたとしても、そのあとに続く4分から5分は、用意していない質問で埋まります。

パート事前の一覧に載るか覚えた回答の使いどころ
Part 1テーマは載る。質問の言い回しまでは載らない準備した内容の一部を使えることがある
Part 2Cue Cardとして載る準備した内容を使える可能性が高い
Part 3載らない。トピックはPart 2とつながるが、質問の文言は試験官が組み立てる回答の全文をそのまま当てにくい

スピーキングは全体で11分から14分で、そのうち4分から5分をPart 3が占めます。一覧を全部覚えたとしても、この時間は初めて聞く質問に答えることになります。

02試験官は暗記した回答にどう対応するのか

用意した回答が最後まで持たない理由は、試験の進め方の設計にあります。Part 3では、試験官が受験者のレベルに合わせて質問の言葉を調整できるためです。

IELTSのスピーキングでは、試験官はframeと呼ばれる台本に沿って進めます。2006年に公開されたIELTSの研究報告(Seedhouse & Egbert)は、試験官向けの資料を次のように引用しています。

試験官への指示(2001年の試験官トレーニング資料)

The IELTS Speaking Test involves the use of an examiner frame which is a script that must be followed…If asked to repeat rubrics, do not rephrase in any way.

台本は必ず守ること、質問を繰り返すよう求められても言い換えないことが指示されています。ただし、この管理の強さはパートによって違います。

台本の管理のしかた

The wording of the frame is carefully controlled in Parts 1 and 2 of the Speaking Test to ensure that all candidates receive similar input delivered in the same manner. In Part 3, the frame is less controlled so that the examiner's language can be accommodated to the level of the candidate being examined.

Part 1とPart 2は、全員が同じ質問を同じ形で受け取れるように文言が厳密に管理されています。Part 3は、受験者のレベルに合わせられるように管理が緩められています。パートごとの扱いは、同じ資料の次の記述からも読み取れます。

  • Part 1:Can examiners ask a follow-up question from something candidate has said? No.(受験者が言ったことから追加の質問をしてよいか。答えは「いいえ」)
  • Part 2:The candidate misunderstands the task and talks off the topic. Let them go ahead; assessment is still on their ability to talk at length and unassisted for the required time…(トピックから外れて話していても、そのまま続けさせる。その場面でも、決められた時間を一人で話し続けられるかを見る)
  • Part 3:Can the examiner ask an unscripted follow-up question in Part 3? Yes.(台本にない追加の質問をしてよいか。答えは「はい」)

Part 2で覚えてきた内容がCue Cardとずれていても、試験官はその場で止めません。止まらないので、うまくいったように感じます。ただしこれは、話す内容がずれていても評価に影響しないという意味ではありません。問題が出るのはそのあとです。

Part 2で覚えたスピーチを話しきれば、そのトピックは乗り切れる止められないので、話しきること自体はできる

Part 2が終わると、必要に応じて締めの質問が入り、そのままPart 3の議論へ進むここから先の質問は事前に用意できない

Part 3で話題を自分から変えることも、基本的には認められていません。先の研究報告は、受験者が話す内容を自分で選ぼうとした場面を取り上げ、それが認められなかったことを記録しています。準備してきた話題へ質問を誘導することはできません。

03試験官はどのような訓練を受けているのか

試験官が手がかりにしているのは、聞かれたことと答えの内容のズレです。試験官向けの資料でも、質問に直接答えていない回答は、用意してきた回答である可能性を示すものとして扱われています。

IELTS試験官になる条件は公開されています(IDPのIELTS試験官についての説明ページ、2026年9月3日時点)。

  • 学位:関連する分野の学士号
  • 指導資格:TESOL・TESL・TEFLなど、認められた英語教授の資格
  • 指導経験:常勤で3年以上、または非常勤で同等の英語指導経験

認定を受けたあとも、2年ごとに再認定を受けます。再認定では追加の訓練と実際の採点が課され、採点が正確で一貫していることをあらためて示す必要があります。認定後は定期的なモニタリングも行われます。試験官によって暗記した回答への対応が大きく変わる、という話ではありません。

暗記した回答について、IELTS公式サイト(ielts.org)の記事は次のように書いています(2023年2月1日公開)。

IELTS公式サイト(ielts.org)

Examiners are highly trained to spot memorised answers, which never bodes well for test takers.
Scripted responses don't give examiners an accurate gauge of your ability to communicate in English, which may eventually lead to lower scores.

試験官は暗記した回答を見抜くよう十分に訓練されており、それが受験者によい結果をもたらすことはない。台本どおりの回答では英語で意思疎通する力を正確に測れず、結果としてスコアが低くなることがある。おおよそこうした内容です。

では何を手がかりにしているのでしょうか。2001年の試験官トレーニング資料には、Part 1で質問に直接答えていない回答をどう扱うかという項目があり、そこに次の記述があります。

質問に直接答えていない回答について(Part 1)

This may be an indicator of inadequate lexis, and therefore that the candidate can only deal with familiar topics. It may also indicate a prepared answer.

語彙が足りていないことを示しているのかもしれず、身近な話題しか扱えないことの表れかもしれない。用意してきた回答であることを示している場合もある、と書かれています。

用意してきた回答は、聞かれたことと答えの内容がずれるところに表れます。同じ資料は、そのずれを語彙の不足を示すものとしても扱っています。暗記そのものを取り出して評価する項目は採点基準にありませんが、暗記した回答に頼ると、質問に合わせて答える力を示す機会がなくなります。

04暗記した回答はBand 0になるのか

スピーキングでは、暗記した回答でBand 0になることはありません。現行のスピーキングのBand Descriptors(Updated May 2023)がBand 0に書いているのは「Does not attend / Does not complete the test」の1行で、受験しなかった場合と試験を完了しなかった場合を指します。暗記への言及はここには出てきません。

丸暗記でBand 0になるという記述があるのは、スピーキングではなくライティングのほうです。ライティングのTask ResponseのBand 0には「does not attend, does not attempt the task in any way, writes a totally memorised response」とあり、丸暗記した回答がはっきり挙げられています。

技能Band 0の記述暗記への言及
スピーキングDoes not attend / Does not complete the testなし
ライティング(Task Response)does not attend, does not attempt the task in any way, writes a totally memorised responseあり

では、スピーキングの採点基準で暗記に触れているのはどこでしょうか。現行のBand Descriptorsでは、Band 1・Band 2・Band 3の3か所に記述があります。

Band 1 Grammatical Range and Accuracy

No rateable language unless memorised.

暗記したものでない限り、採点対象となる言語運用がない、という記述です。この1行は旧版にはなく、現行版で加わりました。

Band 2 Lexical Resource

Very limited resource. Utterances consist of isolated words or memorised utterances.

語彙資源が非常に限られていて、発話は単語単体か暗記した発話で成り立っている、と書かれています。

Band 3 Grammatical Range and Accuracy

Basic sentence forms are attempted but grammatical errors are numerous except in apparently memorised utterances.

基本的な文の形を試みるが、明らかに暗記していると思われる発話を除いて文法の誤りが多い、という記述です。暗記への言及は旧版のBand 3にもあり、そこでは relies on apparently memorised utterances、makes numerous errors except in memorised expressions と書かれていました。

3つの記述に共通しているのは、暗記した発話そのものが、上のバンドを支える材料にはなっていないことです。暗記した部分を正確に話せていても、そこだけを根拠に語彙の幅や文法の正確さがあると評価されるわけではありません。

ただし、暗記した回答を使えばBand 1からBand 3になる、という意味ではありません。この3つのバンドは、基本的な文を自分で組み立てられない水準の記述です。ここから読み取れるのは、暗記した部分は評価の足しにならない、というところまでです。

スピーキング スピーキング 採点基準表(Band Descriptors):新旧の記述を徹底比較

05準備と暗記は、どこで分かれるのか

質問が変わったときにも使えるかどうかを目安にするとよいでしょう。どの質問にも持ち運べる知識や表現なら、準備として働きます。特定の質問にしか使えない文章をそのまま覚えているなら、回答の暗記に近づきます。

Part 1のテーマ一覧やPart 2のCue Cardの一覧を見ておくこと自体は、準備として役に立ちます。行き詰まるのは、その一覧の1問ごとに回答の全文を作り、語順まで覚えようとしたときです。

覚えておくと使えるものなぜ本番で使えるのか
トピックごとの語彙と、よく一緒に使われる言い方質問の言い回しが変わっても、話す内容が同じなら使い回せる
自分の実体験(いつ、どこで、誰と、どうだったか)Part 2でもPart 3でも、具体例として持ち出せる
話を広げる型(理由を述べる、具体例を足す、反対の側に触れる)初めて聞く質問にも当てはめられる

同じトピックの質問を2つ並べて、用意したものが両方に使えるかを試してみましょう。

Do you often use social media?

How has social media changed the way people get news?

1つ目はPart 1、2つ目はPart 3で出てきそうな質問です。用意した内容が1つ目にしか当てはまらないなら、それは1問ぶんの回答を覚えたことになります。ソーシャルメディアについての語彙と、自分が最近そこで何を見たかという実体験なら、どちらの質問でも使えます。

録音して、変わったところを見る

Part 2のCue Cardを1枚選び、何も見ずに2分話して録音します。少し時間を置いて、同じカードでもう一度話します。1回目と2回目で変わったところを書き出すと、その場で組み立てている部分が見えてきます。ここが増えるほど、初めて見るカードでも話せるようになります。

話した内容の英語そのものが合っているかは、自分では気づきにくいところです。録音を文字にして添削にかけると、言い直しや不自然な表現がまとめて出てきます。

IELTS学習アプリ スピーキングAI添削 話した内容の文法と不自然な表現をAIが指摘します

06よくある質問

Part 2の回答をあらかじめ用意しておくのは禁止されていますか

禁止していると書かれた記述は、公開されているIELTSの資料には見当たりません。ただしIELTS公式サイトの記事は、試験官が暗記した回答を見つけ出すよう訓練されていて、台本どおりの回答はスコアが低くなることにつながると書いています。用意するなら、回答の全文ではなく語彙や自分の実体験にしておくと本番でも使えます。

暗記した回答だとスピーキングでBand 0になりますか

なりません。スピーキングのBand 0は、受験しなかった場合と試験を完了しなかった場合を指します。丸暗記でBand 0になるという記述があるのはライティングのTask Responseのほうです。スピーキングの採点基準で暗記に触れているのはBand 1・Band 2・Band 3で、いずれも暗記した部分を評価の材料にはしていません。

試験官は本当に暗記した回答に気づきますか

試験官向けの資料は、質問に直接答えていない回答について、用意してきた回答であることを示している場合もあると書いています。暗記を見抜く専用の手順があるわけではなく、聞かれたことと答えの内容のズレが手がかりになります。試験官は認定を受けたあとも2年ごとに再認定を受け、定期的なモニタリングも受けています。

Part 1では暗記した回答が使えることもありますか

Part 1では、試験官は受験者の回答をもとに自由に質問を広げるのではなく、用意されたframeに沿って質問を進めます。そのため、準備した内容が質問に合っていれば使える場面はあります。ただし質問そのものは事前に想定したものと違うことがありますし、Part 1は4分から5分で、そのあとにPart 2とPart 3が続きます。

Part 2で覚えてきた内容がCue Cardとずれていたら、途中で止められますか

止められません。試験官向けの資料は、トピックから外れて話している場合もそのまま続けさせるよう指示しています。ただしこれは、話す内容がずれていても評価に影響しないという意味ではありません。Part 2が終わると、必要に応じて締めの質問が入り、そのままPart 3の議論へ進みます。

覚えてよいものと覚えないほうがよいものは、どう見分ければよいですか

同じトピックの質問を2つ並べて、用意したものが両方に使えるかを試します。両方に使えるなら、語彙や自分の実体験のように持ち運べるものです。片方でしか使えないなら、それは1問ぶんの回答を覚えたことになります。

出題が噂されているトピックの一覧は見なくてよいのですか

見ておくと役に立ちます。どんなテーマが来るかが分かれば、必要な語彙と自分の実体験を先に用意できます。一覧が役に立たなくなるのは、1問ごとに回答の全文を作って覚えようとしたときです。

07まとめ

暗記が通用しにくい理由は、試験の組み立て方によるものです。Part 1とPart 2は台本の文言が厳密に管理され、Part 3では試験官が受験者に合わせて質問の言葉を調整できます。そのため、Part 3では準備した回答をそのまま使うことが難しくなります。

  • Part 2のCue Cardは、2026年5月から8月の期の一覧で92問。Part 3の質問は一覧に載らない
  • 台本の文言はPart 1とPart 2で厳密に管理され、Part 3では緩められている
  • Part 1で試験官は追加の質問をしない。Part 3では台本にない質問ができる
  • Part 2でトピックから外れて話しても止められないが、直後の締めの質問とPart 3が同じトピックで続く
  • スピーキングのBand 0は、受験しなかった場合と試験を完了しなかった場合。丸暗記でBand 0という記述はライティングのTask Responseにある
  • スピーキングの採点基準で暗記に触れているのはBand 1・Band 2・Band 3の3か所で、いずれも暗記した部分を評価の材料にしていない
  • 準備と暗記の目安は、質問が変わったときにも使えるかどうか

一覧を集めること自体は準備の一部です。そこから作るものを、1問ぶんの回答から、どの質問にも持ち運べる語彙と自分の実体験へ変えていきましょう。

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Hibiki Takahashi

この記事を書いた人

Hibiki Takahashi

日本語で学ぶIELTS対策専門スクール『PlusOnePoint(プラスワンポイント)』創設者・代表。『英語ライティングの鬼100則』(明日香出版社)著者。1997年に大阪大学医学部を卒業後、麻酔科専門医として活躍。2012年渡豪時に自身が苦労をした経験から、日本人を対象にIELTS対策のサービスを複数展開。難しい文法・語彙を駆使するのではなく、シンプルな表現とアイデアで論理性・明瞭性のあるライティングを指導している。これまでの利用者は4,500名を超え、Twitterで実施した「12週間チャレンジ」では、わずか4週間で7.0、7週間で7.5など、参加者4名全員が短期間でライティングスコア7.0以上を達成(うち2名は7.5を達成)。「IELTSライティングの鬼」の異名を持つ。オーストラリア在住14年、IELTS 8.5(ライティング 8.0)、CEFR C2。

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