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ライティング・タスク2

日本語で考えたまま書くと伸び悩む理由:語彙・構文・論理展開の3層で見る母語の影響

文法の誤りを一つずつ直しても、ライティングのスコアがなかなか動かない。そんな停滞の背景には、個別のミスとは別の、もっと根の深い原因が関わっていることがあります。日本語で組み立てた文章を、そのまま英語に置き換えるという書き方そのものです。

この記事では、母語が英作文に与える影響を「語彙」「構文」「論理展開」の3つの層に分けて整理します。単語の選び間違い、不自然な文の組み立て、伝わりにくい段落構成。一見バラバラに見えるこれらの問題は、実は同じ一つの軸でつながっています。

01個別のミスの背後にある共通の原因:L1転移という視点

第二言語習得の分野では、すでに身につけている言語(多くの場合は母語)が、学習中の言語の運用に影響を与える現象は、一般に「言語転移(language transfer)」、あるいは母語からの転移という意味で「L1転移」と呼ばれています。目標言語と、それまでに身につけてきた言語との共通点や相違点から生まれる影響、という捉え方です。

ここで押さえておきたいのは、転移には助けになる方向と、ずれを生む方向の両方があるという点です。母語の知識が学習を後押しする場合を「正の転移」、母語との違いが誤りにつながる場合を「負の転移」と呼びます。日本語と英語のように構造の距離が大きい言語の組み合わせでは、負の転移が起こりやすいポイントがそれだけ多くなります。

誤解のないように付け加えると、「日本語で考えること自体が悪い」わけではありません。エッセイのアイデア出しやプランニングを日本語で行うのは、限られた試験時間の中では現実的な方法です。問題になるのは、日本語で作った設計図をそのまま英語に持ち込むこと。つまり、語の対応、文の組み立て、話の順序という3つの層で、日本語の仕組みが無意識に英文へ流れ込むことです。

この3つの層を順番に見ていきます。ご自身のライティングでどの層のずれが起きやすいかを意識しながら読み進めると、添削で指摘されてきたポイントがつながって見えてくるはずです。

02語彙の層:一語一訳の暗記が生む意味のずれ

最初の層は語彙です。単語を「1語=1訳」のセットで覚えると、日本語の単語が持つ意味の範囲を、そのまま英単語に当てはめてしまいます。ところが、日本語の1語と英語の1語の守備範囲がぴったり重なることは、むしろ少数派です。

たとえば日本語の「高い」は、値段にも高さにも使えます。しかし英語では、値段の高さと物理的な高さで語が分かれるうえ、「品物が高価だ」と「価格が高い」でも使う語が変わります。

In big cities, prices are expensive.expensive は「品物・サービスが高価だ」に使う語で、prices そのものには使いません

In big cities, prices are high.価格の高低は high / low で表します

「狭い」も同じタイプの例です。日本語の「狭い」は面積にも幅にも使えますが、英語の narrow が表すのは幅の狭さです。

Japan is a narrow country.narrow は「幅が狭い」。国土の面積について言うなら small を使います

Japan is a small country.面積の小ささは small で表します

こうしたずれが起きるのは、単語を覚えた時点では問題に見えないからです。「expensive=高い」という暗記は、買い物の場面では正しく機能します。ずれが表面化するのは、覚えた訳語を別の文脈に持ち出したときです。つまり語彙の層の転移は、単語力が足りないから起こるのではなく、覚え方の形式が原因で起こります。

もう一つ注意したいのが、日本語に定着したカタカナ語からの転移です。「クレーム」「チャレンジ」のように日本語の一部になっている語は、元の英単語と意味がずれていることが多く、「知っている単語」だからこそ確認せずに使ってしまいます。このタイプの誤用は、次の記事で詳しく扱っています。

ライティング・タスク2 その「クレーム」、英語では通じません。日本語と意味がずれたカタカナ動詞4選

03構文の層:「〜は」の発想のまま主語を決めている

2つ目の層は、文の組み立て方です。日本語の文は「環境問題は、深刻です」のように、「〜は」で話題を提示して、それについて説明を続ける形が自然です。日本語は、主語だけでなく「トピック(話題)」を文法的に示す仕組みを持つ言語だとよく言われており、こうした構造の違いも英語との差の土台になっています。

一方、英語の文の起点になる主語は、原則として動作や状態の主体です。日本語の「〜は」は話題を示しているだけで、英語の主語とイコールではありません。ここを意識しないまま書くと、「〜は」に当たるものを機械的に主語の位置へ置く、あるいは「〜は」の訳として As for などを文頭に足す、といった転移が起こります。

「〜という問題がある」の直訳

典型的なのが、「若者が地方を離れるという問題がある」のような日本語をそのまま英語にするパターンです。日本語では自然な言い回しですが、直訳すると文の中心がぼやけます。

There is a problem that many young people leave rural areas.「〜という問題がある」の直訳。文法的にも不自然で、主役であるはずの young people が従属節に沈んでいます

Many young people leave rural areas.動作の主体をそのまま主語に置くと、文の焦点がはっきりします

「〜という現象がある」「〜という傾向がある」も同じ構造です。日本語では「問題」「現象」「傾向」といった名詞を立てて文を作りますが、英語では動作の主体を主語にしてしまった方が、短く明確な文になります。

無生物主語という選択肢

もう一歩進んだ転移として、「無生物主語の文が選択肢に入っていない」というものがあります。日本語では「テクノロジーのおかげで、私たちは在宅勤務ができる」のように、原因や手段を「〜のおかげで」「〜によって」という修飾句にして、人を主語に立てるのが自然です。この発想のまま書くと、英文がすべて we や people から始まることになります。

同じ内容の2通りの書き方

Thanks to technology, we can now work from home.(誤りではありませんが、修飾句が長くなりがちです)

Technology has made it possible to work from home.(原因であるテクノロジーを主語に立てた形です)

下の形が常に優れているわけではありません。ただ、書ける文の型が「人が主語」の一種類しかないと、同じ出だしの文が続いて単調になり、採点基準のGrammatical Range and Accuracyのうち「Range(幅)」の面で力を示しにくくなります。文を書き始める前に、「この文の主語と動詞を何にするか」を一度立ち止まって決める。この習慣だけでも、構文の層の転移はかなり防げます。

04論理展開の層:結論を最後まで取っておく日本語の癖

3つ目の層は、文よりも大きな単位、段落と文章全体の組み立てです。一文一文は正しく書けているのに、段落として読むと何が言いたいのか伝わりにくい。この場合、日本語の文章の「順序」が転移している可能性があります。

日本語の説明文では、背景や理由から入って、結論を最後に置く展開が自然に感じられやすいものです。一方、IELTSで期待される英語のパラグラフは逆で、主張(トピックセンテンス)を最初に置き、その後の文で理由や具体例を積み上げて裏付ける、直線的な構造が基本です。結論を最後まで取っておく書き方をすると、採点者は段落の大半を「この話がどこへ向かうのか分からないまま」読むことになり、採点基準のCoherence and Cohesionの観点で不利になります。

この違いは、英語が「書き手責任」の言語、日本語が「読み手責任」の言語だという言い方で説明されることがあります。英語は、伝わるように書く責任が書き手の側にあるとされる一方、日本語は行間を読み手が補いながら読み取る傾向が強い、という捉え方です。この区分をそのまま鵜呑みにする必要はありませんが、「読み手が察してくれる前提で書いていないか」という自己点検の視点としては参考になります。

論理展開の層の転移は、たとえば次のような形で現れます。

  • 主張の後出し:具体例やデータを先に並べ、段落の最終文でようやく言いたいことを言う
  • つながりの省略:具体例と主張の間の「だから何なのか」を明示せず、読み手の推測に委ねる
  • 話題の混在:展開の途中で視点を切り替え、一つの段落に複数の話題が入り込む

また、文と文をつなぐ表現にも、日本語のつなぎ言葉の感覚が転移します。「逆に」の感覚で on the contrary を使う、「一方で」のつもりで単なる話題の追加に on the other hand を使う、といったずれです。個々のつなぎ表現の使用条件については、次の記事で詳しく整理しています。

ライティング・タスク2 文法は正しいのに不自然?使う場面を間違えやすい英語のつなぎ表現6選:in terms of・as for・on the contrary ほか

05転移に気づくためにできること

3つの層に共通するのは、書いている本人は「正しいつもり」で書いているという点です。文法ミスのように形の上で壊れているわけではないため、自分の答案を読み返しても違和感を持ちにくいのが、L1転移の厄介なところです。その前提に立つと、対策は「注意して書く」よりも、覚え方と手順を変えることが中心になります。

  • 単語は使用条件とセットで覚える:訳語だけでなく、「何と組み合わせて使うか」「どんな文脈で使えないか」まで含めて1セットにします。expensive なら「品物・サービスに使う。price には high」という形です
  • 書く前に主語と動詞を決める:日本語の「〜は」をそのまま主語にせず、「この文で動作しているのは誰か・何か」を先に決めてから書き始めます
  • 段落の1文目だけを読み返す:書き終えたら、各段落の最初の文だけを拾い読みして、エッセイ全体の主張の流れが再現できるかを確認します。再現できなければ、主張が後出しになっているサインです
  • 制限時間の外で「英語の型」の練習を分けて行う:試験形式の練習だけを繰り返すと、時間圧の中で日本語の設計図に戻りがちです。無生物主語の文だけを10個作るなど、層を絞った練習を別枠で用意すると定着しやすくなります

それでも、自分一人のチェックには限界があります。誤用は定義上「自分では気づいていない」ものだからです。書いたパラグラフを客観的に点検する手段として、誤用の検出に特化したツールを使うのも一つの方法です。

IELTS学習アプリ Misuse Finder(誤用ファインダー) 書いたボディパラグラフを貼り付けると、単語の選び間違いやコロケーションのずれなど、自分では気づきにくい誤用を検出します

06まとめ

母語の影響は、単語・文・段落というすべてのスケールで、気づかないうちに英作文へ入り込みます。逆に言えば、これまで添削で受けてきた指摘や、繰り返してしまうミスを「日本語の何が転移した結果なのか」という軸で見直すと、バラバラだった課題が3つの層に整理でき、練習の優先順位がつけやすくなります。

  • L1転移は「語彙」「構文」「論理展開」の3つの層で起こる
  • 単語は一語一訳ではなく、使用条件やコロケーションとセットで覚える
  • 日本語の「〜は」をそのまま主語にせず、主語と動詞を先に決めてから書く
  • パラグラフは主張を先に置き、読み手の推測に頼らず「だから何なのか」まで書く
  • 自分では気づきにくい前提に立ち、ツールや添削など外部の目で点検する

日本語で考える力そのものは、アイデアを出し、議論を組み立てるうえでの財産です。設計図を英語の仕様で引き直す手順さえ身につければ、その財産はそのままスコアにつながっていきます。

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Hibiki Takahashi

この記事を書いた人

Hibiki Takahashi

日本語で学ぶIELTS対策専門スクール『PlusOnePoint(プラスワンポイント)』創設者・代表。『英語ライティングの鬼100則』(明日香出版社)著者。1997年に大阪大学医学部を卒業後、麻酔科専門医として活躍。2012年渡豪時に自身が苦労をした経験から、日本人を対象にIELTS対策のサービスを複数展開。難しい文法・語彙を駆使するのではなく、シンプルな表現とアイデアで論理性・明瞭性のあるライティングを指導している。これまでの利用者は4,500名を超え、Twitterで実施した「12週間チャレンジ」では、わずか4週間で7.0、7週間で7.5など、参加者4名全員が短期間でライティングスコア7.0以上を達成(うち2名は7.5を達成)。「IELTSライティングの鬼」の異名を持つ。オーストラリア在住14年、IELTS 8.5(ライティング 8.0)、CEFR C2。

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