ポジティブ心理学の Three Good Things は、1日の終わりにうまくいったことを3つ書き、それぞれについて、なぜうまくいったのかを書き添える記録法です。
この記事では、この記録法をIELTSの学習記録として使える形にアレンジします。何を3つ選ぶのか、なぜ起きたのかをどう書くのか、書いたものを翌週の練習にどうつなげるのかを、技能ごとの記録例とあわせてまとめます。
目次
Three Good Things とはどんな記録法か
学習の振り返りは、なぜできなかったことに偏るのか
3つを何から選ぶか:できたこと・できるようになったこと・気づいたこと
技能ごとに、実際どう書くか
書き留めたものを次の練習にどうつなげるか
続かなくなる原因と、その避け方
よくある質問
まとめ
01 Three Good Things とはどんな記録法か
Three Good Things は、1日の終わりにうまくいったことを3つ書き出し、それぞれについて「なぜそれが起きたのか」を書き添える、という記録法です。ポジティブ心理学のマーティン・セリグマンらが2005年に American Psychologist で報告した実践法のひとつで、現在も各国で紹介されています。
カリフォルニア大学バークレー校が公開している手順(Greater Good in Action、2026年8月31日時点)では、次のように案内されています。
1日10分程度: まとまった時間は要りません。1日の終わりに10分ほど取れれば足ります
まず1週間: まず1週間と決めて続けてみます
3つ書き出す: その日うまくいったことを3つ挙げ、それぞれに短い見出しを付けます
なぜ起きたかを添える: 何がそれを引き起こしたと思うかを1行書きます。文法や綴りは気にしません
報告されている効果については、通説として受け取るのが妥当です。セリグマンらの研究では、1週間続けた参加者が1か月後・3か月後・6か月後の追跡でも幸福感が高く、抑うつの得点が低かったとされています。一方、日本の成人1000人を対象にした追試(経済産業研究所ディスカッションペーパー 15-E-001、2015年1月)では、週2回を4週間続けたグループで肯定的な感情の高まりは介入直後に見られただけで、1か月後には残っていませんでした。抑うつの得点はどちらのグループでも下がらず、他者への信頼のほうが1か月後まで高い状態を保ったと報告されています。
この結果から、気分を改善する方法として一律に期待するのは慎重であるべきだと言えます。この記事では、幸福感を上げる手段としてではなく、学習の材料を残す手順としてこの記録法を使います。書く負担が小さく、続けやすい形が最初から決まっているのが、IELTSの学習記録に持ち込む理由です。
02 学習の振り返りは、なぜできなかったことに偏るのか
誤答の分析に記録が寄るのは、間違いのほうが形として残るからです。落とした問題には設問番号があり、正解と自分の答えの差があり、原因を書く欄が自然に生まれます。正解した問題にはその欄がありません。できたことは「できた」で終わり、なぜできたのかは書かれないまま消えていきます。
もう一つ、できたことを書き出すのは気恥ずかしい、という感覚も働きます。結果として、学習記録が反省文に近づいていきます。
反省の側だけで書かれた記録が、翌週にどう働くのかを比べてみましょう。
✗
セクション3で5問落とした。選択肢の言い換えに気づけなかった。次は注意する翌週に持ち越せるのは「注意する」という決意だけで、具体的な行動が残らない
○
セクション3で5問落とした。選択肢の言い換えに気づけなかった。セクション1は満点。金額と日付は、解く前に10分だけ数字の書き取りをしていた次に再現すべき行動(解く前の10分)が残る
誤答の分析をやめる必要はありません。落とした問題の原因が分からなければ、同じ形で落ち続けます。その欄は残したまま、できたところ、できるようになったところ、それがなければ気づいたところを3つ書き留める欄を、同じノートに足してみましょう。
03 3つを何から選ぶか:できたこと・できるようになったこと・気づいたこと
ここからは、Three Good Things をIELTSの学習記録に使いやすい形にアレンジします。もとの手順は「その日にうまくいったこと」を3つ挙げるものですが、学習の記録に使うときは、次の3つの順番で探すと書きやすくなります。いちばん上が「その日できたこと」、次が「以前はできなかったのに今日はできたこと」、最後が「まだできてはいないが、仕組みが分かったこと」です。
探す順 何を書くか 記録の例
1
その日できたこと
タスク2を38分で書き終えて、見直しの時間が2分残った
2
以前はできなかったのに、今日はできたこと
先月は聞き取れなかった数字の連続が、今日のセクション1では全部取れた
3
まだできてはいないが、仕組みが分かったこと
Not Given を選べなかったが、設問文の範囲が本文より広いときに迷うのだと分かった
3番目の枠があるので、うまくいかなかった日にも記録が残ります。上から順に探すという手順にしているのは、いちばん上の枠を最初から諦めないためです。できたことが1つも無い日は、思っているより少ないはずです。時間内に書き終えた、辞書を引かずに1段落読み切った、言いよどんでも言い直せた。この粒度で拾えば十分です。
「なぜ」の1行が本体
3つ挙げたあと、それぞれに「なぜそれが起きたと思うか」を1行足します。セリグマンらの手順でもここが中心にあり、学習の記録として使うときはなおさら重要になります。理由の欄に自分の行動が書けているものほど、翌週の練習で再現しやすくなるからです。
再現できない理由: たまたま知っている単語ばかりだった、話しやすいトピックが出た、調子がよかった
再現できる理由: 前日に音読を10分した、設問を読む前にパラグラフの1文目だけ拾った、書き始める前に2分かけてタスクを読み直した
再現できない理由が並ぶ日もあります。それが3日続いたら、記録の粒度を一段下げて、自分が実際にした行動を思い出してみるとよいでしょう。
04 技能ごとに、実際どう書くか
技能によって、何がうまくいったのかの見えやすさが違います。リスニングとリーディングは正答数が出るので手がかりが多く、ライティングとスピーキングは自分では判断しにくい技能です。技能ごとに書きやすい形を並べておきます。
技能 書き留める例 添える「なぜ」
リスニング
セクション1のスペリングを1つも落とさなかった
地名と人名は、聞こえた音をそのまま書かずに一度止めて綴りを考えた
リーディング
最後のパッセージに18分残せた
1つ目のパッセージで迷った2問を飛ばして、先に進んだ
ライティング
ボディ2の具体例が、主張と同じ論点のままで書けた
書き始める前に、トピックセンテンスが何を主張しているのかを一度日本語で言い直した
スピーキング
パート2で、2分の途中で止まらずに話し続けられた
メモの1分で単語を並べるのをやめ、話す順番だけを4つ書いた
語彙
覚えたばかりの表現を、自分の答案で1回使えた
例文ごと覚えていたので、使える文型がすぐ出てきた
ライティングとスピーキングは、自分の答案を客観的に評価するのが難しい技能です。うまくいったことを探すときも、内容の良し悪しではなく、自分の行動と時間の使い方で拾うほうが書けます。上の表でライティングとスピーキングの行が「書けた」「話し続けられた」という事実にとどめてあるのは、そのためです。
語彙の行は、覚えた数ではなく使えた回数を書いているところに意味があります。覚えた語の数は増え続けるので記録として差が出にくく、答案や回答の中で1回使えたという事実のほうが、次の練習の目標になります。
05 書き留めたものを次の練習にどうつなげるか
3つの記録は、書いた日ではなく1週間ぶんを並べたときに使えるようになります。週に1回、7日ぶんの「なぜ」の欄だけを続けて読んでみましょう。同じ行動が繰り返し出てきたら、それが自分にとって再現できる条件です。
繰り返し出てくる行動: そのまま学習の手順に組み込みます。解く前の10分の書き取り、書き始める前のタスクの読み直しなど
1回だけの行動: 翌週にもう一度やってみて、同じ結果になるかを見ます
時間帯や体調: 再現できない条件ですが、いつやると良い結果が出るかの手がかりになります
誤答の記録と突き合わせる作業も、ここで行います。同じ技能で、うまくいった日とそうでなかった日の「なぜ」を比べると、差が行動の側に出ていると分かります。この比較ができるのは、うまくいった日の理由も書き残してあるからです。反省だけの記録では、比較する片方がありません。
リスニングとリーディングは正答数が数字で残ります。こうした記録は、正答数と一緒に残しておくと変化を追いやすくなります。
IELTS学習アプリ
LR学習記録ツール
Cambridge IELTS公式問題集のリスニング・リーディングの正答数をセクションごとに記録し、目標ラインとの差をグラフで確認できます
試験の結果が出たあとの振り返りにも、同じ考え方を使えます。スコアの数字だけを見て終わりにせず、何がうまくいって、何がうまくいかなかったのかを技能ごとに分けるところまで進めると、次の受験までの計画を立てられます。
IELTS総合対策
スコアを見て終わりにしない:IELTSの結果が出た後の振り返り方
06 続かなくなる原因と、その避け方
この記録法が止まるときの原因は、だいたい書き方の側にあります。3つ埋めようとして書けない日に手が止まる、1つずつ長く書こうとして時間がかかる、寝る前に回して忘れる。どれも、書く量と時間の決め方で避けられます。
止まる原因 どうするか
3つが埋まらない日がある
気づいたことに範囲を広げます。「途中で集中が切れる時間帯が分かった」でも1つに数えます
1つずつ長く書いてしまう
1行で止めます。事実を1行、なぜを1行の2行で十分です
寝る前に書こうとして忘れる
学習を終えた直後に書きます。1日の終わりでなくても、記録として同じように使えます
いつまで続けるか決まっていない
まず1週間で区切ります。もとの手順でも、期間は1週間から始まります
「気づいたこと」の枠は、失敗を無理にポジティブに言い換えるためのものではありません。次の練習に使える発見があれば、それを1つとして記録します。書く場所は、いま使っている学習ノートの見開きの右下でも、スマートフォンのメモでも問題ありません。誤答の分析と同じ場所にあることのほうが、後から並べて読むときに役立ちます。
スコアが下がった直後や、伸び悩んでいる時期は、うまくいったことがいちばん見えにくい時期です。そういう時期に3番目の枠が支えになります。「気づいたこと」だけで3つ埋めた週があっても、記録としては欠けていません。
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自信をなくしかけた時にするべきこと:IELTSのスコアが下がった時・伸び悩む時の立て直し方
07 よくある質問
毎日3つ書かないと意味がありませんか。
もとの手順は3つ書く形になっているので、まずは3つを目安にします。ただし、3つ書けないと効果がないという意味ではありません。1つしか書けない日は1つで十分です。3つ探そうとすると、できたことの粒度が自然に下がって拾いやすくなります。
できたことが思いつかない日はどうすればよいですか。
3つの枠のうち、いちばん下の「気づいたこと」まで範囲を広げます。まだできてはいないけれど仕組みが分かった、という内容で1つに数えます。途中で集中が切れる時間帯が分かった、という記録でもかまいません。
できなかったことの記録はやめたほうがよいのですか。
やめる必要はありません。落とした問題の原因を書くのは必要な作業です。誤答の分析の欄は残したまま、うまくいったことの欄を同じノートに足してみましょう。両方あると、うまくいった日とそうでない日の差を比べられます。
「なぜそれが起きたのか」は必ず書く必要がありますか。
この1行が記録の本体なので、書いておくとよいでしょう。理由の欄に自分の行動が書けているものほど、翌週の練習で再現しやすくなります。たまたま知っている単語だった、という理由が並ぶ日は、実際にした行動を思い出してみるとよいでしょう。
手書きのノートとアプリのどちらがよいですか。
どちらでも構いません。判断の基準は、誤答の分析と同じ場所にまとめられるかどうかです。あとから1週間ぶんを並べて読む作業があるので、2か所に分かれていないほうが読み返す手間が減ります。
どのくらい続ければよいですか。
まず1週間で区切るのがおすすめです。もとの手順も1週間から始めるものなので、7日ぶんの「なぜ」を並べれば、繰り返し出てくる行動が見えます。そこで手応えがあれば続け、無ければ書き方を変えて次の1週間を試します。
この記録でスコアが上がるという根拠はありますか。
スコアとの関係を調べた研究は見つかりません。もとの研究が測っているのは幸福感と抑うつの得点で、日本での追試では気分の改善は一時的だったと報告されています。この記事で期待しているのは気分の変化ではなく、翌週の練習に持ち越せる材料が記録として残ることです。
スピーキングやライティングでも書けますか。
書けます。ただし、内容の良し悪しよりも、自分の行動と時間の使い方で拾うほうが書きやすいでしょう。2分の途中で止まらずに話し続けられた、見直しの時間が2分残った、といった事実の形にしておくと、翌週に確かめられます。
08 まとめ
学習記録が誤答の分析だけで埋まるのは、間違いのほうが形として残るからです。うまくいったことは、意識して書き留めないかぎり消えていきます。Three Good Things の手順を借りると、その欄を1日2行の負担で足せます。
1日の終わりか学習を終えた直後に、うまくいったことを3つ書き留める
できたこと、以前はできなかったのに今日はできたこと、できてはいないが仕組みが分かったことの順に探す
それぞれに「なぜそれが起きたと思うか」を1行足す
理由の欄に自分の行動が書かれているものほど、翌週の練習で再現しやすい
週に1回、7日ぶんの理由の欄を並べて読み、繰り返し出てくる行動を学習の手順に組み込む
まず1週間で区切って試し、手応えを見てから続けるかを決める
今日の学習の中で、うまくいったことを1つ挙げてみましょう。そして、それがうまくいった理由を1行だけ書いてみましょう。この2行から始められます。