シャドーイングは、英語の学習法の中でもとくに名前が知られている練習の一つです。リスニングが伸びないという相談を受けたときにも、すでに取り組んでいるという方によくお会いします。
ただ、IELTSのスコアという目的から見ると、この練習で伸びるのはリスニングとは限りません。この記事では、シャドーイングがもともと何のための練習だったのか、IELTSではどの技能に効果が表れやすいのかを説明します。あわせて、試験日までの期間が限られている人が先に取り組める練習を紹介します。
01シャドーイングとはどんな練習か
シャドーイングは、流れてくる音声を聞きながら、少し遅れて同じ内容を声に出して追いかける練習です。スクリプトは見ず、音声も止めません。聞こえた音を影のように追いかけていくところから、この名前が付いています。
声に出す練習にはいくつか種類があり、名前だけでは何が違うのか分かりにくいところがあります。まずは4つを並べて比べてみます。
| 練習 | やること | 負荷がかかるところ |
| 音読 | 文字を見て、自分のペースで声に出す | 発音と、文のどこで切るか |
| オーバーラッピング | 文字を見ながら、音声とそろえて声を重ねる | リズム、強勢、音のつながり |
| リピーティング | 音声を止めて、聞いた分を思い出して言う | 聞いた内容をいったん保持すること |
| シャドーイング | 文字を見ず、音声を止めず、少し遅れて追いかける | 聞くことと話すことを同時に行うこと |
4つを比べると、シャドーイングだけが文字の助けも、止めて考える時間も持っていないことが分かります。音を受け取る作業と、声を出す作業が同時に走ります。上級者向けだと言われる理由はここにあります。
なお、文字を見ながら追いかける形をシャドーイングと呼ぶ場合もあります。呼び方が揺れている練習なので、教材や指導者によって指している中身が違うことがあります。ここでは、文字を見ずに追いかける練習をシャドーイングと呼びます。
POINT
同じ「声に出す練習」でも、文字を見るかどうかと、音声を止めるかどうかで負荷がまったく変わります。自分がどれをやっているのかを言えるようにしておくと、うまくいかないときに原因を探しやすくなります。
02シャドーイングはどこから来た練習なのか
シャドーイングのもとをたどると、心理学の実験で使われていた作業に行き当たります。
Cherry が1953年に報告した実験では、左右の耳に別々の音声を流し、片方だけを声に出して追いかけるよう被験者に指示しています。人が複数の音の中から一つを選んで注意を向けられるのかを調べる実験で、カクテルパーティ効果という名前で紹介されることの多い研究です。このとき被験者に課された作業が、いまシャドーイングと呼ばれているものにあたります。
この実験でシャドーイングにあたる作業が担っていたのは、被験者の注意を片方の音声に固定することでした。内容を理解できたかどうかを測るための作業ではありません。実際、反対の耳から流れていた音声について、被験者は内容をほとんど説明できませんでした。音を追いかけることと、意味を受け取ることは、この実験では初めから別のものとして扱われています。
日本で学習法として広まったきっかけは、同時通訳者の訓練法として紹介されたことだと言われています。通訳の現場では、相手が話している最中に別の言語で話し出す必要があります。聞くことと話すことが重なる状態そのものに慣れておく、という目的がはっきりしていた練習でした。
通訳者の訓練として使われていた時点で、対象になっていたのはすでに英語を聞いて理解できる人でした。聞けば分かる人が、聞きながら話すという二重の作業に耐えられるようにするために使っていました。聞いても意味が取れない段階の人が同じ練習をすると、練習が向いている先がひとつずれます。
学習法として紹介されるときには、こうした来歴まで一緒に伝わるとは限りません。名前と手順だけが取り出されて広まると、誰がどの目的で使っていたのかが抜け落ちます。シャドーイングが「リスニングの練習」として紹介されやすいのは、この抜け落ちのぶんが大きいところです。
03IELTSでシャドーイングが役立つのはどの技能か
IELTSという試験に限って言えば、シャドーイングの効果が表れやすいのはスピーキングの側です。
他人の話し方をそのまま借りる練習なので、強勢の位置、文の中でどこを高く読むか、どこで息を切るかといった要素が自分の発話に入ってきます。スピーキングの採点基準では Pronunciation の観点でこうした要素が見られますし、言いよどみが減っていけば Fluency and Coherence にも関わります。抑揚が平坦になりやすいという自覚があるなら、取り組む価値のある練習です。
一方で、リスニングのスコアという目的から見ると、シャドーイングが扱っている作業と、試験で求められる作業のあいだにずれがあります。
| シャドーイングで練習される作業 | IELTSリスニングで求められる作業 |
| 聞こえた音を、そのまま口に出す | 聞こえた音から、意味を取る |
| 話者のリズムと強勢をまねる | 設問が求めている情報だけを選び出す |
| 音声の速さに遅れずについていく | 音声が始まる前に、次に来る情報を予測しておく |
| 文字を見ずに、音だけで追いかける | 聞き取った語を、正しい綴りと語形で書く |
左の列にあるのは、音をそのまま口に出すところまでの作業です。右の列にあるのは、聞こえた内容から答えを取り出して解答欄に載せるまでの作業です。シャドーイングを続けると、音のつながりや弱く読まれる語に気づきやすくなります。ただ、気づいた範囲を超えて設問の処理が速くなるわけではありません。
音の輪郭が取れるようになれば、聞き取りの土台は広がります。ただ、その広がりが設問の正答として表れるまでには時間がかかります。試験日が近い時期に限られた学習時間の多くをここに充てると、伸びを実感しにくい期間が続きます。
音と文字が結びついていないことが失点の中心にある場合は、シャドーイングより先に確認しておきたい練習があります。そちらは別の記事で扱っています。
リスニング
スクリプトなら分かるのに聞き取れない:IELTSリスニングで音と文字をつなげる練習法
04なぜシャドーイングは上級者向けと言われるのか
シャドーイングが上級者向けとされるのは、聞くことと話すことを同時に行う練習だからです。どちらか一方が自動化していないと、そちらに処理が取られて、もう片方が止まります。
4-1 素材が難しいと、口だけが動く
知らない語や、つながって聞こえる箇所が多い音源を使うと、音を追いかけること自体に処理が使われます。声には出ているのに、何を言ったのかを説明できない状態になります。この状態で回数を重ねても、発音のまねにも内容の理解にも届かないまま時間が過ぎます。
素材の選び方
- スクリプトを読めば、ほぼ意味が取れる:読んで分からない箇所が多い素材は、シャドーイングの前に読んで理解しておきます
- 1回は30秒から1分:長い音源を通しで追うより、短い区間を繰り返すほうが自分の崩れる箇所が見つかります
- 同じ素材を数日使う:毎日違う音源に手を出すと、できなかった箇所がそのまま流れていきます
4-2 IELTSの音源は、まねる素材としては扱いにくい
IELTSのリスニングには、複数人で交わされる会話と、一人の話者が続けて話すモノローグが含まれます。話者が複数いたり、言い直しや相づちが入ったりするので、まねる対象としては情報が多くなります。どの話者の、どの言い方を再現しようとしているのかが定まらないまま追いかけることになりがちです。話し方を借りたいなら、一人の話者が続けて話す音源のほうが扱いやすくなります。
ここは目的で分けて考えるところです。試験の音声に慣れることが目的なら、IELTSの音源をそのまま使って構いません。話し方を自分のものにすることが目的なら、素材を分けたほうが進みます。
4-3 できているかどうかを、自分で判断しにくい
音読やディクテーションには、読んだ文章や書き取った答えが手元に残ります。あとから突き合わせて、どこを落としたのかを確かめられます。シャドーイングは声が消えていくので、追いかけられたかどうかの判断が感覚に寄ります。
録音して聞き返す手順を入れておくと、ここが変わります。自分の声だけを聞き返すのではなく、お手本と並べて、遅れが大きくなった箇所と、音が消えた箇所を探します。この手間を入れないと、崩れた箇所に気づかないまま回数だけが増えていきます。
シャドーイングは、どの場合でも「やった感触」の強い練習です。声を出し続けるので疲れますし、続けた実感も残ります。実感と成果が一致しているかどうかは、別に確かめる必要があります。
05名前のついた練習法を渡り歩いてしまうのはなぜか
練習法に名前が付いていると、何をするかがはっきりするので選びやすくなります。シャドーイング、ディクテーション、多聴、精聴。どれも手順が決まっていて、今日から始められます。教材も情報も手に入ります。
ただ、その練習が自分のどの弱点に対応しているのかは、名前からは分かりません。名前が示しているのは作業の内容であって、改善される力ではありません。そのため、思うように伸びないと練習法そのものを疑うことになり、別の名前を探しに行きます。次の練習法でも同じところで止まれば、また次を探します。
抜け出す順番は逆で、練習法を選ぶ前に、自分がどこで落としているのかを分けておくほうが早くなります。直近の模擬試験を1本用意して、間違えた設問を次の4つに仕分けてみましょう。
| 失点の型 | 起きていること | 向いている練習 |
| 音そのものが取れなかった | 知っている語でも、音と文字が結びついていない | スクリプトと突き合わせるディクテーション |
| 音は取れたが、意味が追いつかなかった | 1文を処理する速さが足りていない | 短い英文を1回で処理する練習、区切りごとの精聴 |
| 意味は取れたが、答えを選べなかった | 設問の言い換えや先読みの手順が身についていない | 設問タイプ別の解き方の確認 |
| 答えは分かったが、不正解だった | 綴り、語形、語数の指定でずれている | 綴りと語形の確認 |
この仕分けをすると、シャドーイングが対応しているのは1行目だということが見えてきます。しかも1行目の中でも、音と文字を結びつける部分はディクテーションのほうが直接的です。1行目に失点が集まっているなら取り組む意味がありますし、2行目から4行目に集まっているなら、先に手を付ける場所が別にあります。
練習法を試すこと自体は続けて構いません。決めておきたいのは、その練習が自分のどの力を伸ばすためのものかを言えるかどうかです。語彙を増やすためなのか、処理の速さを上げるためなのか、音に慣れるためなのか。言えるようになると、すぐにスコアが上がらなくても、続ける理由が自分の中に残ります。
IELTS学習アプリ
瞬間リスニング
1回だけ流れる短い英文を聞いて、5秒で意味を選ぶ練習ができます。聞いた内容をその場で処理する速さを確かめられます。
06短期でリスニングのスコアを上げるには何を先にやるか
試験日まで時間が限られているなら、聞き取りそのものより、設問の処理と解答の書き方から手を付けるほうが結果に出やすくなります。聞く力は積み上がるまでに時間がかかりますが、処理の手順と書き方は、確認すればその日から変えられるからです。
| ステップ | すること | 確かめること |
| 1 失点を仕分ける | 直近の模擬試験1本の誤答を、05節の4つの型に分ける | どの型にいちばん多く集まっているか |
| 2 先読みの手順を決める | 音声が始まる前の時間で、空欄に入る情報の種類を予測する | 予測した種類と、実際の答えがそろっていたか |
| 3 ディクテーションを短く入れる | 1分の音源を書き取り、スクリプトと突き合わせる | 落とした箇所が音の問題か、語を知らなかったのか |
| 4 綴りと語形を確認する | 書けなかった語だけを集めて、音を聞いて綴りを書く | 1週間後に、同じ語を音から書けるか |
| 5 余力でシャドーイングを入れる | すでに意味が取れる素材で、話し方をまねる | スピーキングの練習として時間を取れているか |
ステップ2とステップ3は、どちらも聞き取りに関わりますが、やっていることが違います。先読みは、音声が始まる前に情報の種類を絞る作業です。ディクテーションは、音と文字のずれを見つける作業です。片方だけを続けていると、もう片方の失点がそのまま残ります。
聞き取れていたのに解答で落とす失点は、直すための手数がいちばん短くて済みます。聞こえた語を書くところでずれているなら、聞く練習を増やしても正答にはつながりません。
シャドーイングをステップ5にしているのは、切り捨てるという意味ではありません。スピーキングの練習として位置づければ、この練習には持ち場があります。リスニングの点を動かす手段として時間を充てると、試験日までの期間に対して見合わなくなります。
期間に余裕がある場合は、順番が変わります。試験までまだ数か月あるなら、音と文字を結びつける練習に時間を使っておくと、あとから設問の処理を載せやすくなります。どちらを先にするかは、残り時間で決めるところです。
07よくある質問
シャドーイングはIELTSのリスニング対策として意味がないのですか
意味がないわけではありません。音のつながりや弱く読まれる語に気づきやすくなるので、聞き取りの土台は広がります。ただ、それが設問の正答として表れるまでには時間がかかるため、試験日が近い時期の優先度は高くなりません。
シャドーイングはどのくらいのレベルから始めるとよいですか
使う素材のスクリプトを読んで、ほぼ意味が取れることが目安です。読んで分からない箇所が多い素材では、音を追うことに処理が取られて内容が残りません。読んで意味が取れる素材から始めます。
シャドーイングとオーバーラッピングは何が違いますか
オーバーラッピングは文字を見ながら、音声と同時に声を重ねます。シャドーイングは文字を見ず、音声を止めず、少し遅れて追いかけます。文字の助けがないぶん、シャドーイングのほうが処理の量が多くなります。
シャドーイングはスピーキングのどの観点に関わりますか
強勢の位置や抑揚を借りる練習になるので、Pronunciation の観点に関わります。言いよどみが減っていけば Fluency and Coherence にも関わります。抑揚が平坦になりやすい自覚があるなら、取り組む価値があります。
IELTSのリスニング音源をシャドーイングの素材に使ってもよいですか
使えますが、話し方をまねる目的では扱いにくい素材です。話者が複数いたり言い直しが入ったりするので、どこを再現するのかが定まりません。試験の音声に慣れることが目的なら、そのまま使って構いません。
1日どのくらいシャドーイングをすればよいですか
分数よりも、同じ素材を繰り返せているかを目安にするとよいでしょう。30秒から1分の短い区間を数日使い回すほうが、毎日新しい音源に手を出すより、自分の崩れる箇所が見つかります。
シャドーイングは同時通訳の訓練法だと聞きましたが、受験者がやる必要はありますか
通訳者の訓練として使われていた時点で、対象は英語を聞いて理解できる人でした。聞けば分かる段階に届いていれば、話し方をまねて、自分の発音や抑揚に取り込む練習として使えます。そこに届いていない段階では、先に音と文字を結びつける練習を入れるほうが進みます。
学習法をいろいろ試してきましたが、何から決めればよいですか
練習法を選ぶ前に、直近の模擬試験の誤答を仕分けるところから始めるとよいでしょう。音が取れなかったのか、意味が追いつかなかったのか、答えを選べなかったのか、書き方でずれたのか。どこに集まっているかで、取り組む練習が決まります。
08まとめ
シャドーイングは、名前が広く知られているぶん、リスニングの万能薬のように扱われやすい練習です。実際には、聞くことと話すことを同時に行う負荷の高い作業で、IELTSではリスニングよりも話し方の側に働きます。
- シャドーイングは、文字を見ず、音声を止めずに、少し遅れて追いかける練習です
- もとは心理学の実験で使われた作業で、日本には同時通訳者の訓練法として紹介されました
- IELTSでは、リスニングよりスピーキングの側に効果が表れやすくなります
- 聞くことと話すことが同時に走るので、スクリプトを読めば意味が取れる素材で行います
- 練習法の名前は作業の内容を示すだけで、自分のどの弱点に対応するかまでは示しません
- 試験日が近いなら、失点の仕分け、先読み、短いディクテーション、綴りの確認を先に入れます
いま取り組んでいる練習が何のためのものかを言えるようになると、学習法を次々に変える必要はなくなります。次の模擬試験のあとに、誤答を4つの型へ分けるところから始めてみましょう。