試験まで数週間しかない状態で、スピーキングの流暢さをなんとかしたい。そう考えている人は多いと思います。流暢さは短期でも伸ばせる部分ですが、伸ばせる幅には限界もあります。とくに文法がまだ安定していない場合、話す量を増やしただけでは、言い直しや言い淀みが目に見えて減るわけではありません。
それでも打つ手がないわけではありません。練習の組み立て方を変えると、同じ時間をかけても詰まり方は変わります。この記事では、回答を一文から段階的に伸ばしていく方法、詰まった箇所だけを取り出す反復、自由に答えるのをいったんやめる手順、そして短期対策として何から順番に手をつけるかを紹介します。
目次
短期間で流暢さを上げるのが難しいのはなぜか
回答を「一文→二文→短い回答→30秒」に分解する
鍛えているのは話す力ではなく、文を取り出す速さ
詰まったら最初からやり直さない
自由に答えるのを、いったんやめる
スピーキング6.5に、完璧な英語は要らない
短期対策は何から順番に手をつけるか
よくある質問
まとめ
01 短期間で流暢さを上げるのが難しいのはなぜか
短期で流暢さを動かしたいときにまずやることは、話す量を増やすことではなく、1回に処理する量を減らすことです。負荷を下げないまま反復しても、詰まる場所は同じところに残ります。
よく使われる練習に「同じ質問を3回続けて話す」というものがあります。1回目は詰まっても、2回目、3回目と繰り返すうちに言葉が出てくる、という考え方です。これで詰まりが減る人はたしかにいます。一方で、3回やっても毎回同じところで止まってしまう、という人もいます。
差が出るのは、英語の文を作る作業がどこまで自動化されているかです。質問を聞いてから声が出るまでに、頭の中では次の工程が動いています。
質問を聞いて、何を聞かれているかを理解する
頭の中で、答えたい内容を決める(この段階でまず日本語が浮かぶ人も多いはずです)
それを英語の文に組み立てる
英語として声に出す
すでに使い慣れた構文が多い人は、3つ目の工程をほとんど意識せずに通過できます。同じ質問を繰り返すうちに語や構文が呼び出しやすくなり、2回目、3回目で目に見えて速くなるのはこのタイプです。一方、毎回ゼロから英文を組み立てている感覚が強い人では、3回繰り返しても負荷が十分には下がらないことがあります。反復そのものが無駄なのではなく、反復だけでは足りない場合がある、ということです。
この状態でいきなり30秒の回答を目指すのは、かなり無理があります。30秒話すというのは、この工程を止めずに何度も回し続けるということだからです。組み立てが1回でも間に合わなければ、そこで沈黙が生まれます。短期対策では、1回に回す量を小さくするところから始めるとよいでしょう。
スピーキング
IELTSスピーキング初級者向け:ヘジテーションを減らすステップ式練習法
02 回答を「一文→二文→短い回答→30秒」に分解する
負荷を下げる具体的なやり方が、回答を一文ずつ組み立てていく方法です。完成形をいきなり目指さず、一文だけを即答できる状態にしてから、次の一文を足します。Part 1のよくある質問で見てみましょう。
Q. Do you enjoy cooking?
Step 1 一文だけ
考える時間をゼロにして、質問が終わった瞬間に返せるようにします。
Step 2 理由を1文足す
Yes, I do.
I enjoy cooking because it's relaxing.
because以下だけを入れ替えれば、別の質問にも使い回せます。
Step 3 具体例を足す
Yes, I do.
I enjoy cooking because it's relaxing.
I usually cook dinner at home.
凝った例は要りません。ふだんやっていることをそのまま言います。
Step 4 もう一文足す
Yes, I do.
I enjoy cooking because it's relaxing.
I usually cook dinner at home, especially on weekends.
It's also cheaper than eating out.
ここまでで、短いながらも一つのまとまった回答になります。
色の付いた行が、そのステップで足した部分です。
大事なのは、次のステップに進む条件を「言えた」ではなく「考えずに言えた」に置くことです。Step 2で一度でも詰まるなら、Step 3には進まずにStep 2をもう何回か回します。逆に、Step 4で崩れたらStep 3まで戻します。前のステップに戻るのは失敗ではなく、この練習の通常運転です。
この分解のよいところは、どこで処理が追いつかなくなるかが自分で見えることです。二文までは即答できるのに三文目で止まるなら、問題は語彙でも度胸でもなく、文を継ぎ足していく作業そのものにあります。そこが分かれば、練習する場所も一つに絞れます。
03 鍛えているのは話す力ではなく、文を取り出す速さ
この段階でやっているのは、会話の練習ではありません。短い英文を瞬間的に取り出す練習です。答える内容が決まってから、それが英語として口から出るまでの時間を短くしていくことが目的になります。
そのため、練習の形も会話らしさから離します。短い質問と短い答えを、数をこなして往復します。
Q. Do you like cooking? A. Yes, I do.
Q. Why? A. Because it's relaxing.
Q. When do you cook? A. I usually cook on weekends.
回答としては素っ気ないくらいで構いません。ここで見ているのは内容の充実度ではなく、質問が終わってから声が出るまでの時間です。短い質問を10問ほど並べて、どれも間を置かずに返せるようになったら、次は答えを二文にします。
ここで鍛えているのは、いわば英語の取り出し速度(retrieval speed)です。流暢さとして表に出てくるものの中身は、かなりの部分がこの速さで決まります。話し慣れているかどうかというより、必要な形がどれだけ手前に置いてあるかの問題です。
IELTS学習アプリ
チャンク練習
よく使うかたまり(チャンク)を音声つきで練習できます。取り出す速さを上げる素材としてどうぞ。
04 詰まったら最初からやり直さない
詰まったときは、文の頭からやり直すのではなく、詰まった部分だけを取り出して繰り返します。戻す範囲を狭くするほど、その箇所に触れる回数が増えます。
たとえば、こうなったとします。
I think... um... because... people...
こうなると、文の頭に戻ってもう一度言い直したくなります。ただ、この戻し方だと、言えていた前半まで毎回作り直すことになります。何度やり直しても、実際に詰まった箇所に触れるのはそのうちの1回ずつだけで、そこに使えている時間はごくわずかです。
そうではなく、出てこなかった部分だけを切り出します。because people are busyが出てこなかったのなら、そこだけを口に出します。
because people are busy
because people are busy
because people are busy
3回言うこと自体が目的ではありません。ここでも基準は「言えた」ではなく「考えずに言えた」です。考えなくても出てくるようになったら、質問に戻します。
Q. Why do people eat out? A. Because people are busy.
順番を切り出しからにするだけで、同じ時間でも詰まった箇所に触れる回数が数倍になります。しかも、切り出した形は他の質問でもそのまま使えます。because people are busyは、外食の話にも、電話ばかり見ている話にも、家族と過ごす時間の話にも入ります。
この練習で伸ばしているのは、流暢さというよりは取り出しの速さです。1本ずつ手前に置き直していく作業なので、地味に見えますが、詰まる場所が確実に減っていきます。
05 自由に答えるのを、いったんやめる
それでも詰まりが取れないときは、自由に答える量そのものを減らします。何を答えてもよい状態は、内容を決める作業と英文を作る作業が同時に走るので、負荷がいちばん高くなります。
次の質問で考えてみます。
Q. What do you usually do at weekends?
この質問に自由に答えようとして毎回詰まるのなら、答えを先に用意しておいて、練習では選ぶだけにします。用意するのは自分です。ノートに候補を3つ書き出しておき、質問されたらその中から1つを選んで口に出します。
段階 やること 口に出す英文
候補から選ぶ 答えの候補を3つ書き出し、その中から1つ選んで言う At weekends, I usually stay at home / go shopping / meet my friends.
理由を足す 選んだ文に、becauseで一文だけ足す I usually stay at home because I need to relax.
もう一文足す ふだんやっていることを一文足す I usually stay at home because I need to relax. I often watch movies.
候補を閉じる 書き出したノートを閉じて、同じ質問に答える (その場で組み立てて答える)
選ぶだけの段階では、英語を作る作業がほとんど発生しません。それでも、選んだ文を口に出すこと自体が、その形を手前に置く作業になっています。理由や具体例を足す段階に進んでも、足すのは一文ずつなので、負荷は少しずつしか上がりません。
ノートを閉じるのは最後です。ここで詰まるようなら、ひとつ前の段階に戻ります。最初から自由に答えようとして毎回沈黙するより、候補を見ながら20問こなしたほうが、口から出る英文の総量ははるかに多くなります。
06 スピーキング6.5に、完璧な英語は要らない
6.5を目標にする場合も、文法の誤りをゼロにする必要はありません。誤りが残っていても、伝達が成立したまま内容を展開できているほうが評価につながります。公式のBand Descriptorsの記述からも、そのことが読み取れます。
Band 6 Fluency and Coherence(現行版)
Able to keep going and demonstrates a willingness to produce long turns. Coherence may be lost at times as a result of hesitation, repetition and/or self-correction.
Band 6 Grammatical Range and Accuracy(現行版)
Though errors frequently occur in complex structures, these rarely impede communication.
Band Descriptorsに6.5という項目はありません。バンドごとの記述があるのはBand 6とBand 7です。Band 6の記述は、ためらいや言い直しでつながりが崩れることがある状態、複雑な構文で誤りが頻繁に起こる状態を、そのまま含んでいます。Band 7になると、目立った努力なしに長い発話を作れること、ためらいや言い直しがあっても一貫性には影響しないこと、という書き方に変わります。
ここで注意したいのは、Band 6の記述は誤りを許容しているのではなく、誤りがあっても伝達が成立している状態を指しているという点です。どちらの記述も、止まらずに話せていることを前提にしています。ここまでの基準を踏まえると、6.5を狙う短期対策で優先すべきは、すべての誤りをなくすことではなく、意味のある内容を途切れさせずに展開できる状態です。無傷の英語ではなく、崩れても戻ってこられる話し方、と言い換えてもいいでしょう。
6.5が見えてくる話し方
I think it is mainly because people are becoming more busy these days. They have less time to spend with their families, so they tend to rely on their phones for entertainment.
more busyはbusierのほうが自然ですが、この程度のずれで意味が分からなくなることはありません。それより、理由を述べてから結果につなげるという流れが、途切れずに最後まで届いています。
短期では6.5が厳しくなる話し方
I think... because... um... people... nowadays... I mean... there are many reasons... maybe because... they are busy...
こちらは文法の問題以前に、発話の流れそのものが続いていません。内容としては同じことを言おうとしていても、聞き手には主張が届かないままです。この状態から数週間で6.5に届くのは、かなり難しくなります。
ここで分けて考えたいのが、次の2つです。同じ「6.5を目指す」でも、やることがまったく変わります。
考え方 やること 短期での見込み
英語力そのものを大きく伸ばす 語彙、文法、発話力を総合的に伸ばす かかる時間の個人差が大きい
今の英語力で6.5を取れる状態にする すでに持っている表現を取り出しやすくし、止まらずに展開できるようにする 数週間でも動く余地がある
試験が数週間後に迫っているなら、手をつけられるのは下の行です。新しい知識を積む方向ではなく、すでに持っているものを引き出しやすくする方向に、時間の使い方を寄せることになります。
スピーキング
スピーキング 採点基準表(Band Descriptors):新旧の記述を徹底比較
07 短期対策は何から順番に手をつけるか
残り時間が少ないときほど、手をつける順番で結果が変わります。おすすめは、話が止まらない状態を先に作り、内容の作り込みは後回しにする並べ方です。
順番 やること これができると
1 回答を一文から段階的に伸ばし、詰まった箇所だけを切り出して反復する 沈黙が減り、話し続けられるようになる
2 自分が実際に使う文法構造を数個に絞って安定させる 言いかけて直す回数が減る
3 結論、理由、具体例という展開の型を作る 回答が途中で終わらなくなる
4 Part 2の長い発話とPart 3の抽象的な設問に応用する 本番の形式で同じ話し方ができる
逆に、この段階で優先度を下げてよいものもあります。長期的には価値がある学習でも、詰まっている状態のまま取り組むと、短期では結果に結びつきにくくなります。
難しい単語を大量に覚える:語彙力そのものは評価に関わりますが、覚えたばかりの語は取り出しに時間がかかります。すでに知っている基本語を素早く使う練習に比べると、短期では優先順位が下がります
高度な文法を新しく覚える:構文を増やす方向より、すでに使える構文を安定させる方向のほうが、短期では早く効きます
模範解答を大量に暗記する:暗記した答えが使える質問に当たる確率は高くありません。思い出す作業が入る分、詰まりが増えることもあります
そのうえで、見通しは甘くしないほうがよいでしょう。ここまでの練習をやっても簡単な一文すら即座に出てこないのであれば、6.5対策に入る前に、英語を話すための処理速度そのものを上げる訓練が要ります。この状態は「IELTSスピーキングの練習量を増やせば6.5になる」という話ではありません。基礎の自動化に何週間か使ったうえで、試験日を先に延ばすという判断も含めて考えたほうが、結果的に近道になります。
IELTS学習アプリ
MockTest-S
本番形式の質問でスピーキングの自己練習ができます。段階的に伸ばす練習の素材としてどうぞ。
08 よくある質問
短期間でスピーキングの流暢さは上げられますか
短期でも伸ばせる部分ですが、伸ばせる幅には限界もあります。英語力そのものを伸ばす方向では間に合わないので、すでに持っている構文を取り出しやすい場所に置き直し、止まらずに話せる状態を作る方向に絞ります。文法がまだ安定していない場合は、その分だけ動く幅が小さくなります。
同じ質問を3回話す練習は効果がありませんか
これで詰まりが減る人はいます。繰り返すうちに語や構文が呼び出しやすくなるからです。ただ、毎回ゼロから英文を組み立てている感覚が強い段階では、3回繰り返しても負荷が十分には下がらないことがあります。反復が無駄なのではなく、その場合は回答を一文ずつに分解し、詰まった箇所だけを切り出して繰り返すところまで踏み込むと早く効きます。
一文ずつ伸ばす練習は、どうなったら次のステップに進めばよいですか
「言えた」ではなく「考えずに言えた」を条件にします。一度でも詰まるうちは、同じステップをもう何回か回します。次のステップで崩れたら、ひとつ前に戻します。戻るのは失敗ではなく、この練習では通常の動きです。
話している途中で詰まったら、最初から言い直したほうがよいですか
練習では最初に戻さず、詰まった部分だけを取り出して、考えなくても出てくるようになるまで口に出し、そのあとで質問に戻ります。文の頭からやり直すと、言えていた前半まで毎回作り直すことになり、詰まった箇所に使える時間がごくわずかになります。本番でも、言い直す必要が出たときは、文全体を最初からやり直すのではなく、直したい部分だけを短く言い換えるほうが流れを保ちやすくなります。
答えの候補を先に用意してから答えるのは、本番の練習になりますか
候補を用意する形は最終形ではなく、負荷を下げるための入口です。選ぶだけの段階でも、その文を口に出すこと自体が形を手前に置く作業になります。理由を足す、具体例を足す、と段階を上げていき、最後は書き出したノートを閉じて同じ質問に答えます。
スピーキング6.5には文法の誤りをなくす必要がありますか
その必要はありません。Band 6のGrammatical Range and Accuracyには、複雑な構文で誤りが頻繁に起こっても伝達を妨げることはめったにない、という記述があります。これは誤りを許容しているというより、誤りがあっても伝達が成立している状態を指しています。誤りをゼロにすることより、止まらずに内容を展開できるほうを優先するのが現実的です。
短期間なら模範解答を暗記したほうが早いのではありませんか
暗記した答えがそのまま使える質問に当たる確率は高くありません。しかも本番では思い出す作業が入るぶん、かえって詰まりが増えることがあります。同じ時間を使うなら、becauseで理由を足す形のように、質問が変わっても中身を入れ替えるだけで使い回せる骨組みを増やすほうが効きます。
簡単な一文すら即座に出てこない場合はどうすればよいですか
その段階では、IELTSスピーキングの練習量を増やしても6.5には結びつきにくくなります。英語を話すための処理速度そのものを上げる訓練に何週間か使い、そのうえで試験日を含めて計画を見直すほうが結果的に近道です。Yes, I do.のような一文を考えずに返せるところから積み直します。
09 まとめ
短期で流暢さを動かすときの軸は、話す量を増やすことではなく、1回に処理する量を減らすことです。一文ずつ足していく、詰まった箇所だけを切り出す、自由に答えるのをいったんやめる。どれも、頭の中で走っている工程を少なくするための操作です。
完成形の回答をいきなり目指さず、一文、二文、短い回答、と段階的に伸ばす
次のステップに進む条件は「言えた」ではなく「考えずに言えた」に置く
詰まったら文の頭に戻さず、出てこなかった部分だけを考えなくても出てくるまで繰り返してから質問に戻す
毎回詰まる質問は、答えの候補を先に書き出す形に下げてから、段階的に自由回答へ戻す
難しい単語、高度な文法、模範解答の暗記は、この段階では優先度を下げる
6.5に求められるのは無傷の英語ではなく、崩れても戻ってこられる話し方
そして、これだけやっても簡単な一文が出てこないのであれば、目標そのものを組み直す時期かもしれません。無理のある目標を抱えたまま練習を続けるより、どこまでなら届くかをいったん見極めたほうが、次の一手は決めやすくなります。