三単現のsも、名詞の複数形も、説明を求められれば答えられます。それなのに、書き上げたエッセイを読み返すと、凡ミスがちらほら、どころか、あらゆるところに見つかります。文法を理解していないわけではないのに、なぜ書いたものにはミスが残るのでしょうか。
この記事では、基本文法のミスが起きる仕組みを、知識と運用の違いから整理します。答案でミスが集まる3つの場所、採点基準での見られ方、40分の中でできる見直しの手順、自分のミスの型を絞る練習法まで順に確認します。
目次
なぜ文法を知っているのにミスが出るのか
凡ミスが集まる3つの場所
凡ミスはスコアにどう響くのか
書きながら直すか、書き終えてから直すか
見直しは種類ごとに分けて通す
自分のミスの型を10個以内に絞る
よくある質問
まとめ
01 なぜ文法を知っているのにミスが出るのか
基本文法のミスが出るのは、文法を理解していないからではなく、書いている最中にその形へ注意を向ける余裕が残っていないからです。文法の知識には、聞かれれば説明できるという段階と、書きながら勝手に正しい形が出てくるという段階があり、この2つは別々に育ちます。三単現のsを説明できることと、エッセイの15文目で自動的に付けられることは、同じ力ではありません。
エッセイを書いている40分の間、頭の中は次に何を書くかで占められています。この理由で本当に説得力があるか、この語の使い方は合っているか、残り時間で結論まで届くか。意味と構成と時間に注意が回っている状態では、意味を変えない形は後回しになります。
そして語尾のsは、まさに意味を変えない形です。The government promote public transport と書いても、言いたいことは読み手に届きます。書いている本人にも届いてしまうので、読み返したときに正しい文に見えます。意味が通る文は正しく見える、というのが凡ミスが残る最大の理由です。
日本語を母語とする書き手には、もう一つ事情が重なります。日本語には、英語のような主語と動詞の人称・数による一致がありません。「政府は推進する」と「人々は推進する」で、動詞の形は変わらないままです。主語の人称と数を確認してから動詞の形を決める、という手順が、母語で文を組み立てるときには一度も出てきません。英語で書くときだけ必要になる手順なので、注意が薄くなるとまっさきに抜け落ちます。
つまり「頭では分かっているのにミスをする」という自己認識は正確です。足りないのは知識ではなく、書いている間の注意の配分と、書き終えたあとの手順です。だとすれば対策も、文法書をもう一周することではなく、どの場所を、いつ、どの順で見るかを決める作業に変わります。
ライティング・タスク2
日本語で考えたまま書くと伸び悩む理由:語彙・構文・論理展開の3層で見る母語の影響
02 凡ミスが集まる3つの場所
基本文法のミスはあらゆるところに出るように感じられますが、実際に答案を見ていくと、出る場所はかなり偏っています。ここでは特に多い3つに絞って、どう間違えるのかから確認します。例文は、プラスワンポイントの模試に収録しているタスク(2026年8月19日時点で509件)から次の1本を選び、そのトピックで書いた場合の形にそろえました。
In some countries the government promotes public transport as the primary means of transportation, and discourages private vehicle ownership. Do you think the advantages of this policy outweigh the disadvantages?
2-1 三単現のsと、名詞の複数形のsが落ちる
✗
The government promote public transport because it reduce traffic congestion.1文の中で2か所とも落ちている
○
The government promotes public transport because it reduces traffic congestion.主節と従属節の動詞、どちらも主語は三人称単数
✗
Many commuter rely on public transport in large city.名詞の複数形が2か所抜けている
○
Many commuters rely on public transport in large cities.数えられる名詞は、単数か複数かを毎回決める
なぜ落ちるのか
三単現のsと名詞の複数形のsは、文法的には別の現象です。それでも答案では同じ場所でまとめて落ちます。どちらも、落ちたところで文の意味がほとんど変わらないからです。commuter と commuters のどちらでも、通勤者の話をしていることは伝わります。書き手の注意は意味に向いているため、意味を変えない要素は素通りします。しかも日本語で内容を考えてから英語にしている場合、頭の中の下書きには単数か複数かの情報が入っていないので、英語にする段階で初めて判断することになります。
答案では何が起きるか
この型は、1文に2か所以上まとまって出ることが多くなります。動詞が2つある文では両方から落ち、名詞が3つ並ぶ文では3つとも単数のままになります。1か所直せば済む話にならないので、ちらほら出ているように見えて、実際には誤りのない文がまとまって減っていきます。
見直しで拾うには
意味を読まずに動詞だけを目で追い、その主語がhe・she・itに置き換わるかを1つずつ確かめる方法が確実です。名詞のほうは、数えられる名詞が単数の形で置かれている箇所を探します。a・an・the・this・their のような限定詞が付いておらず、複数形にもなっていない可算名詞が残っていれば、そこが直す場所です。people や governments のように、もともと複数形で無冠詞のまま使える名詞まで直す必要はありません。
2-2 主語と動詞が離れると一致が崩れる
✗
The number of people who use private vehicles in large cities have fallen.直前の cities に引っぱられている
○
The number of people who use private vehicles in large cities has fallen.主語の中心は number
✗
The cost of building new railway lines are extremely high.of のうしろの lines を主語だと感じている
○
The cost of building new railway lines is extremely high.主語の中心は cost
なぜ崩れるのか
動詞を書く時点で頭に残っているのは、直前に書いたばかりの名詞です。The number of people who use private vehicles in large cities まで書き進めると、主語の中心である number は9語も前を通過していて、耳に残っているのは cities のほうになります。of句や関係代名詞節をはさむほど、主語の中心と動詞の距離は開きます。
答案では何が起きるか
この型が出るのは、構文の幅を広げようとした文です。短い単文なら間違えない一致が、修飾語句を足して情報を詰め込んだ文で崩れます。難しい構文に挑戦した文ほど誤りが残るという結果になるので、書き手としては報われにくく感じられる場所です。
見直しで拾うには
動詞を見つけたら、そこから左へさかのぼり、「何が」の答えになる名詞を1語で言えるかを確かめます。number、cost、use、increase のような語が中心にあれば、of のうしろがどれだけ複数形でも動詞は単数に対応する形です。1語で挙げられないときは、主語が長くなりすぎているサインでもあるので、文を2つに分けるほうが早く片づきます。
2-3 書いている途中で時制が入れ替わる
✗
When a city expands its rail network, more residents chose to commute by train.前半は現在形、後半だけ過去形
○
When a city expands its rail network, more residents choose to commute by train.一般論なので両方とも現在形
✗
In the past, car ownership was a symbol of success, and many families buy a second vehicle.過去の話の途中で現在形に戻っている
○
In the past, car ownership was a symbol of success, and many families bought a second vehicle.過去の事例なので両方とも過去形
なぜ入れ替わるのか
タスク2の議論は一般論なので、基本は現在形で進みます。ところが具体例として過去の出来事を1文はさむと、その1文で頭の中の時間が過去に移ります。次の文で話題が一般論に戻っても、時間の設定だけが過去に置き去りになり、動詞の形がそのまま続きます。時制は文ごとに独立して選んでいるようで、実際には書き手が今どの時間の話をしているつもりかで決まっています。
答案では何が起きるか
読み手から見ると、どこまでが一般論でどこからが過去の事例なのかの境目が消えます。文法の正確さの問題にとどまらず、議論の枠組みが読み取りにくくなるため、具体例が主張を支える働きも弱まります。
見直しで拾うには
その段落の中心になっている議論の時制を基準に置き、そこから切り替わっている動詞が意図した切り替えかどうかを見ます。一般論を現在形で進めている段落に過去形の文があるなら、それが過去の事例を指しているのか、それとも引きずっただけなのかを確かめます。事例のために過去形にした文があれば、その次の文で現在形に戻っているかを続けて確認します。段落単位で見ると、1文ずつ判断するより速く終わります。
03 凡ミスはスコアにどう響くのか
基本文法のミスは、1つにつきいくつ引かれるという数え方をされません。採点基準(Band Descriptors)のGrammatical Range and Accuracyでは、誤りのない文が頻繁に見られるかどうかも、評価の観点の一つとして書かれています。現行版(Updated May 2023)の記述は次のとおりです。
バンド Grammatical Range and Accuracy の記述(現行版)
8 The majority of sentences are error-free, and punctuation is well managed.(大半の文に誤りがなく、句読点もよく管理されている)
7 Grammar and punctuation are generally well controlled, and error-free sentences are frequent.(文法と句読点は概ねよく統制されており、誤りのない文が頻繁に見られる)
6 Errors in grammar and punctuation occur, but rarely impede communication.(文法や句読点の誤りが起こるが、伝達を妨げることはめったにない)
ここで見てほしいのは、8と7の記述に error-free sentences という言葉が入っていることです。誤りが伝わりやすさを損なうかどうかとは別に、誤りのない文がどれだけ見られるかという観点も置かれています。三単現のsの脱落は、伝達を妨げるミスではありません。それでも、そのsが落ちた文は、少なくとも誤りのない文とは評価できなくなります。
採点は文の数を機械的に数えて決まるものではないので、何文までなら大丈夫という線は引けません。ただ、伝達に影響しないミスであっても、それが散らばるほど、誤りのない文が頻繁に見られるという印象からは遠ざかります。基本的な誤りの厄介さは、1つずつは軽いのに、数が集まると評価の観点そのものに触れてくる点にあります。
もう一つ、バンド6の記述には Examples of more complex structures are not marked by the same level of accuracy as in simple structures.(複雑な構文の例は、単純な構文と同じ水準の正確さでは書けていない)という一文があります。構文の幅を広げようとした文で正確さが落ちるという現象は、採点基準の側にもあらかじめ織り込まれています。長い文を書いたときに一致が崩れるのは、その書き手だけに起きていることではありません。
ライティング・タスク2
ライティング・タスク2 採点基準表(Band Descriptors):2023年5月改訂で何が変わったのか
04 書きながら直すか、書き終えてから直すか
基本的な誤りへの対処は、書き終えてからまとめて行うほうが、時間と注意を効率よく使えます。書いている最中に1文ずつ戻って確認すると、そのたびに議論の流れが途切れ、書き直した部分に新しい間違いが入ります。文法を直すつもりで止まった時間が、内容の組み立てを崩してしまうわけです。
この判断には時間の裏づけもあります。タスク2に配分する40分のうち、最後に3分から5分ほどを見直しに残す配分が、練習の実感としては現実的なところです。IELTSが定めた時間ではありませんが、この数分を1文ずつの確認に前借りしてしまうと、書き終わった時点で残り時間がなく、結局どこも見返せないまま提出することになります。
見直しに入ったときの順番は、語数が250語を下回っていないか、タスクで問われている点にすべて触れているか、を先に確認するのが基本です。文法の確認はそのあとに来ます。語数が足りていない状態で三単現のsを直しても、そちらの不足は残ったままだからです。
書いている最中にできることを1つだけ挙げるなら、段落を書き終えた区切りで、その段落の動詞だけを見返す方法があります。1文ごとに止まるのとは違い、段落の切れ目はもともと次に何を書くか考える瞬間なので、流れを切らずに差し込めます。
ライティング・タスク2
IELTSライティングタスク2の40分:プランニングと見直しに何分残すかの判断基準
05 見直しは種類ごとに分けて通す
見直しは、頭から1回通して読むよりも、探すものを1つに決めて複数回通すほうが拾えます。通し読みをすると、目が意味を追ってしまうからです。意味が通る文は正しく見えるので、三単現のsが落ちた文も、書いた本人には自然な英文として流れていきます。
探すものを1つに固定すると、意味を読む回路が働きにくくなります。動詞だけを探すと決めた目には、名詞も形容詞も背景として流れ、動詞の形だけが浮かび上がります。次の3つのパスは、それぞれ短時間で1周できる分量です。
パス 見るもの 確かめること
1周目 すべての動詞 主語がhe・she・itに置き換わる形なら、sが付いているか。段落の時制と合っているか
2周目 数えられる名詞 単数の形なのに限定詞が付いておらず、複数形にもなっていない名詞が残っていないか
3周目 2行以上に渡る文 主語の中心になる名詞を1語で言えるか。その語と動詞の形が対応しているか
時間が2分しか残らなかった場合は、1周目だけで切り上げてかまいません。3つの中では動詞を見る周がもっとも拾える箇所が多く、1周だけでも効果が出ます。自分のミスの型が名詞側に偏っているとわかっている場合は、順番を入れ替えて2周目から始めるほうが効率が上がります。
手書きで受験する場合は、紙の上で行を指でたどりながら動詞を探すと、目が意味に流れにくくなります。コンピューターで受験する場合も、画面を上から順に読むのではなく、動詞の位置に視線を飛ばしていくつもりで見るとよいでしょう。
06 自分のミスの型を10個以内に絞る
1人の書き手が繰り返すミスは、種類としては限られています。あらゆるところに出ているように見えても、書き出してみると同じ型が何度も現れているだけ、ということが少なくありません。型が分かれば、見直しで見る対象を自分用に絞れます。
記録のしかたには一つだけコツがあります。直された箇所をそのまま書き写すのではなく、型に言い換えてから書くことです。
そのまま書き写す: promotes のsが抜けていた
型に言い換える: 主語が単数の一般論を書くとき、三単現のsが抜ける
そのまま書き写す: The cost ... are を is に直された
型に言い換える: of句をはさんで主語が長くなると、of のうしろの名詞に動詞を合わせてしまう
そのまま書き写した記録は、その1語しかカバーしません。型に言い換えておくと、次に別の語で同じことが起きたときにも当てはまります。同じ型が何度も出てくるなら、それを見直しの優先項目にします。目安を決めておきたい場合は、たとえば3回以上出た型を自分の1周目に回す、という運用にすると迷いません。
型を増やしすぎないことも大切です。20も30も並んだリストは、本番の3分では使えません。10個を超えたら、出現回数の少ないものから落として、上位のものだけを残します。落とした型が本当に必要になれば、また添削で出てきます。
自分の答案でどの型が出ているかを知るには、書いたものに指摘を入れてもらうのが早道です。プラスワンポイントのアプリでは、書いた英文に対してAIが不自然な箇所を指摘するツールを公開しています。
IELTS学習アプリ
ライティングAI添削
書いた英文の不自然な箇所をAIが指摘・提案します。指摘された箇所を型に言い換えて記録すると、自分の見直しリストが作れます。
それでもミスが減らないときは、1文の長さを見直すのも手です。修飾語句を足すほど主語と動詞は離れ、時制の設定も長く引きずったままになりがちです。1文を短くすると、同じ内容でも一致を確かめる距離が縮み、凡ミスが入り込む余地が減ります。
07 よくある質問
三単現のsを落とすと、スコアはどのくらい下がりますか
1つのミスにつきいくつという数え方はされません。採点基準のGrammatical Range and Accuracyには、誤りのない文が頻繁に見られるかどうかという観点が書かれています。三単現のsの脱落は伝達を妨げるミスではありませんが、その文は少なくとも誤りのない文とは評価できなくなります。
文法書をもう一度やり直したほうがよいですか
説明を読めば理解できる項目であれば、同じ説明をもう一周しても凡ミスの数はあまり変わりません。ミスが出ているのは知識ではなく、書いている間の注意の配分と、書き終えたあとの手順の問題だからです。書いたものを型ごとに見直す練習のほうが直結します。
ミスは書きながら直すのと、書き終えてから直すのとどちらがよいですか
書き終えてからまとめて直すほうが向いています。1文ごとに戻ると議論の流れが途切れ、書き直した部分に新しい間違いが入ります。40分のうち最後の3分から5分ほどを見直しに残す配分が現実的です。
見直しの時間が2分しか残りませんでした。何を見ればよいですか
語数が250語を下回っていないかを先に確認し、そのあと動詞だけを追います。すべての動詞について、主語がhe・she・itに置き換わる形かどうかと、その段落の時制と合っているかを見ます。名詞や長い文のチェックは、時間が残ったときに回します。
主語と動詞が離れた文で、一致を間違えないコツはありますか
動詞から左へさかのぼり、「何が」の答えになる名詞を1語で言えるかを確かめます。The number of people who use private vehicles in large cities であれば中心は number なので、動詞は has fallen になります。of のうしろの名詞や、関係代名詞節の中の名詞に引っぱられやすい場所です。
時制は全部現在形にそろえてしまってもよいですか
そろえる必要はありません。一般論は現在形で書き、過去の事例に触れる文だけ過去形にする形が自然です。注意したいのは、事例を1文はさんだあと、次の文で現在形に戻し忘れることです。
凡ミスが多いのは、英語力が低いということですか
凡ミスの多さと英語力は別のものとして考えられます。修飾語句を足して情報を詰め込んだ文ほど基本形が崩れやすく、採点基準のバンド6にも、複雑な構文は単純な構文と同じ水準の正確さでは書けていないという記述があります。ミスが出る位置を型として記録し、見直しの対象を絞るほうが実際的です。
練習ではミスが出ないのに、本番で出るのはなぜですか
練習では時間を測っていなかったり、書きながら辞書や文法書を見ていたりすることがあります。本番と同じ40分で書くと、注意が内容と時間に取られ、文法の形に回る余裕が減ります。時間を測って書いたものを見直す練習にすると、本番に近い形でミスが出てきます。
08 まとめ
基本文法のミスは、理解の不足ではなく、書いている間の注意の配分と、書き終えたあとの手順で決まります。三単現のsを説明できることと、15文目で自動的に付けられることは別の力なので、対策も文法の勉強ではなく、どこをどの順で見るかという手順づくりです。
ミスが出るのは知識の不足ではなく、意味と構成と時間に注意が向いている間、意味を変えない形が後回しになるため
日本語には英語のような人称・数の一致がないので、主語の数を確かめてから動詞の形を決める手順は英語のときだけ必要になる
凡ミスが集まるのは、三単現のsと名詞の複数形のs、主語と動詞が離れたときの一致、書いている途中での時制の入れ替わりの3か所
採点基準のGrammatical Range and Accuracyには、誤りのない文が頻繁に見られるかどうかという観点がある。伝達を妨げないミスでも、その文は誤りのない文とは評価されない
書きながら1文ずつ直すと流れが切れて新しいミスが入る。40分のうち最後の3分から5分ほどを見直しに残し、まとめて処理する
見直しは通し読みではなく、動詞、名詞、長い文の3周に分ける。時間がなければ動詞の1周だけでも拾える
指摘された箇所は語ではなく型として記録し、10個以内に保つ。何度も出てくる型(たとえば3回以上)を見直しの1周目に回す
次に1本書き終えたら、読み返す前に動詞だけを追う1周を入れてみるとよいでしょう。意味を読まずに形だけを見る数十秒で、思っていたより多くの箇所が見つかるはずです。