バスや電車の運賃を、政府が負担して無料にする。IELTSライティング・タスク2では、この案にどの程度賛成するかを問う形で出題されます。
タスク深掘りシリーズの第8回では、公共交通の無料化をテーマにしたタスクを取り上げます。everyone が示す対象の広さ、運賃をやめたときに誰が費用を負担するのか、賛成側と反対側それぞれの掘り下げ方、オーストラリア・クイーンズランド州とルクセンブルクの実例、交通と財源を論じるときの語彙を具体的に押さえます。
目次
このタスクでは何が問われているのか
無料にすると、誰がその費用を負担するのか
賛成側でよく使われるアイデアと、その掘り下げ方
反対側でよく使われるアイデアと、その掘り下げ方
答案に入れられる実例はどれか
中級と上級で押さえたい語彙とコロケーション
モデルアンサーはどう作るか
よくある質問
まとめ
01 このタスクでは何が問われているのか
公共交通の無料化を正面から扱ったタスクを1問見てみます。
Some people think that the government should fund public transport so that it is free for everyone who uses it. To what extent do you agree or disagree?
共通の読み方の手順は、シリーズの総論で扱っています。まず、このタスクで実際に起きる読み違いから見ていきます。
タスク深掘りシリーズ
タスク深掘りシリーズ:アイデア・実例・語彙・モデルアンサーまで1問ずつ徹底解説【総論】
1-1 「公共交通は大切か」という話にすり替わる
✗
論じる中身=公共交通は社会にとって必要か渋滞、排出、通勤の便利さを並べる答案になる。無料にするかどうかが出てこない
○
論じる中身=政府が費用を負担して、運賃をゼロにすべきか誰が費用を負担するのかまで含めて論じる
公共交通が役に立つことは、賛成側も反対側も認めます。争点はそこではなく、運賃を利用者から取るのをやめて、政府がその分を出すべきかどうかです。公共交通の利点を並べるだけでは、だから政府が運賃を負担して無料にすべきだ、という主張にはつながりません。
公共交通に利点があることと、政府がその費用を負担すべきことは別問題です。この違いは、次の記事で詳しく扱っています。
ライティング・タスク2
べき論をメリットで考えない:利点があることと、主張の根拠になることは別問題
1-2 everyone を落として、対象を絞った制度の話にする
✗
高齢者や低所得層には無料にすべきだ、という主張で段落を作る対象を絞った制度の話。タスクが述べているのは everyone
○
全員を無料にするのではなく、対象を絞るほうがよい、という形で使う部分的に反対する立場の材料になる
free for everyone who uses it の everyone は、この案の輪郭を決めている語です。所得にも年齢にも関係なく、使う人は全員が無料になります。高い所得のある人も、車を持っていて時々しか乗らない人も含まれます。
対象を絞る案そのものは、答案で使えます。ただし、賛成側の主張として書くと設問からずれます。全員を無料にすることには賛成しないが、対象を限れば意味がある、という形で置くと、部分的な立場として成り立ちます。
タスクを3つの要素に分ける
要素 このタスクでの中身
前提として与えられている事実 政府が公共交通に資金を出して全員を無料にすべきだ、と考える人がいる
論じる対象 政府が費用を負担する、利用者全員への無料化
問われていること この考えにどの程度賛成するか、あるいは反対するか
問題タイプごとの答え方は、次の記事にまとめてあります。
ライティング・タスク2
問題タイプ別の答え方:agree/disagree【各論①】
02 無料にすると、誰がその費用を負担するのか
運賃をゼロにしても、バスや電車を運行するための費用がなくなるわけではありません。運賃収入が消えた分は、どこかから補う必要があります。ここまで考えると、単なる利点と欠点の列挙から一歩進んだ議論になります。
ルクセンブルクは2020年に、国内の公共交通を無料にしました。ヨーロッパ委員会の都市モビリティ観測所(EU Urban Mobility Observatory)の記事によれば、対象は鉄道、バス、トラムで、一等車と国外へ出る移動は有料のままです。財源は税収で、当時の副首相は、税をあまり払っていない人にとっては実質的に無料になり、多く払っている人にとっては少し高い値段を払っている形になる、と説明しています。
無料と、安くすることは別の選択肢
この設問は無料化について聞いていますが、現実の政策には段階があります。運賃をゼロにする方法と、低く抑える方法です。
やり方 利用者の負担 運営側から見た違い
運賃をゼロにする 払わない 運賃収入が無くなる。徴収と検札にかかる費用の一部も減る
運賃を低く抑える 少額を払う 収入は大きく減るが、徴収の仕組みは残る。値段を戻す余地もある
オーストラリアのクイーンズランド州は、2024年8月5日から6か月間の試行として、州内の公共交通の運賃を片道50セントにしました。無料ではありませんが、実質的にはそれに近い水準です。2つのやり方を分けて書けると、無料化に反対する立場でも、値下げなら支持するという形で議論を組み立てられます。
03 賛成側でよく使われるアイデアと、その掘り下げ方
まず自分で書き出してから、以下を読むことをおすすめします。先に完成品を読むと、そこに書いてあった議論しか浮かばなくなります。
3-1 車から乗り換える人が出て、渋滞と排出が減る
いちばん多い論点です。運賃がゼロになれば、車を使っていた人の一部が公共交通へ移り、道路の混雑と排出が減る、という筋道になります。
ここでは、どの層が車から移るのかまで絞って考えます。乗り換えが起きやすいのは、公共交通でも車と同じくらいの時間で着く区間です。駅やバス停まで歩いて15分かかる地域では、運賃がゼロになっても所要時間の差が埋まりません。移る人と移らない人の条件を書き分けると、反対側からの批判に先回りできます。
3-2 移動の費用が下がり、仕事や医療に届きやすくなる
公平性の論点です。収入に対する交通費の割合は、所得の低い世帯ほど大きくなります。運賃がゼロになると、その負担がそのまま消えます。
さらに、費用が下がることで何が可能になるのかまで考えてみましょう。通勤の範囲が広がれば、応募できる仕事の数が増えます。定期的な通院や、子どもの習い事のように、費用がかかるので回数を減らしていた移動も戻ります。移動費を理由に外出や通院を控えていた人にとって、無料化は移動の機会を増やす政策になる、というところまで書くと、段落が具体的になります。
3-3 運賃を集める仕組みそのものが要らなくなる
見落とされやすい論点です。運賃を取るには、券売機、改札、ICカードの仕組み、検札の人員、料金の設定と告知が要ります。無料にすると、運賃の設定や徴収、検札などにかかる一部の費用と手間を減らせます。
ここから、乗り降りの速さにも目を向けられます。運賃の支払いが要らなくなれば、乗車時の支払いにかかる時間を短縮できます。利用者の多い路線では、停車時間の短縮につながることもあります。運賃収入を失う代わりに、運行そのものが速くなる面もある、と説明すると、費用の議論にもつながります。
04 反対側でよく使われるアイデアと、その掘り下げ方
4-1 財源が要る。税か、他の支出の削減か
反対側の中心になる論点です。運賃収入が消えた分は、税を増やすか、他の予算を減らして埋めることになります。
ここでは、誰が払うことになるのかまで書きます。税で賄うと、公共交通を使わない人も費用を負担します。地方に住んでいて路線が近くにない人が、都市部の路線の費用を負担する形にもなります。無料という言葉が、費用が消えることを意味しないという点を押さえると、賛成側の議論に正面から答えられます。
4-2 運賃だけを下げても、乗る人はそれほど増えない
人が移動手段を選ぶときには、値段以外の条件も見ています。何分で着くか、何分おきに来るか、時間どおりに来るか、座れるか。運賃はその要素のひとつです。
ここでは、無料化に使う予算を設備投資に回す場合と比較できます。同じ予算を、路線の延長、車両の増備、運行本数の増加に使う選択肢があります。運賃をゼロにするために予算を使い切ると、その投資に回す分が残りません。ルクセンブルクでも、無料化から数年たった時点で多くの住民が車を持ち続けていると報じられています。値段以外の条件が変わらなければ、選ばれる手段も大きくは変わらない、という説明になります。
4-3 利用が増えると混雑し、質が下がる
無料化が成功した場合に起きる問題です。乗る人が増えれば車内は混み、座れなくなり、遅れも出ます。快適さが大きく損なわれれば、車から移ってきた利用者が再び車を選ぶ可能性もあります。
ここでは、増便の費用にも触れられます。混雑に対応するには車両と運転士を増やす必要があり、運賃収入が無い状態でその費用を出すことになります。無料化を始めたあとに費用が増えた場合、あらためて運賃を導入することには政治的な難しさもあります。
自分の意見をどう決めるか
無料か有料かの二択ではなく、どこまで利用者の負担を下げるべきかという幅で考えると、立場を決めやすくなります。全員を無料にすることには反対だが、運賃を大きく下げることには賛成する、という立場なら、02で見た2つのやり方をそのまま使えます。
対象を限定するという考え方もあります。全員ではなく、通学、通院、求職といった目的や、所得の低い世帯に絞る形です。どの範囲まで無料にするのかを導入で示しておけば、本文の2段落がつながります。
05 答案に入れられる実例はどれか
深掘りの段階では、2件から3件ほど用意しておけば十分です。答案への入れ方、たとえば主張のあとに1文か2文で添えることや、数字は原則として1つに絞ることは、シリーズの総論にまとめています。
事例 何をしたか 報告されていること
オーストラリア・クイーンズランド州(2024年)
値下げの例。2024年8月5日から6か月間の試行として、州内の公共交通の運賃を片道50セントにし、同年11月30日に恒久化が決まった
州政府の発表では、開始から10月末までの利用が前年同期と比べて南東クイーンズランドの全モードで16.7%増、フェリーは43.9%増。利用者の負担は1億1000万豪ドル以上減ったとされる(クイーンズランド州政府、2024年11月30日)
ルクセンブルク(2020年〜)
全面無料化の例。2020年に国内の鉄道、バス、トラムを無料にした。一等車と国外へ出る移動は有料のまま
財源は税収。無料で乗り継げる網ができた一方、住民の多くは今も車を所有していると報じられている(EU Urban Mobility Observatory、2023年)
この2件は、賛成側と反対側のどちらにも使えます。クイーンズランドは、値段を下げれば利用が増えることを示しています。ルクセンブルクは、無料にしても車の保有が大きくは減っていないことを示しています。値段が利用に影響することと、値段だけで手段の選択が決まらないことは、両立します。
なお、クイーンズランドの50セントは無料ではありません。無料化そのものの実例として引くと、事実がずれます。値下げの効果の例として使い、無料化の例はルクセンブルクのほうを引くと正確になります。
このタスクでの入れ方
✗
In Queensland, fares were cut to 50 cents on 5 August 2024, patronage rose by 16.7% overall, ferry use rose by 43.9%, and passengers saved more than 110 million dollars before the policy was made permanent on 30 November.数字が4つ入り、報告書のような文章になっている
○
When Queensland cut public transport fares to 50 cents in 2024, passenger numbers rose by around 17% within three months, which suggests that price does influence how people travel.主張のあとに1文。数字は1つに絞ってある
IELTSの答案では、出典を詳しく示す必要はありません。国名や州名と、何がどの方向に変化したのかが分かれば、具体例として十分に働きます。
06 中級と上級で押さえたい語彙とコロケーション
このテーマでは、お金を出す側の動詞と、料金を指す名詞の使い分けが要ります。fare と fee と cost はどれも「料金」と訳されますが、置き換えられません。
中級:バンド6を目指す段階
表現 意味と使いどころ
public transport(英)/ public transportation(米) 公共交通。不可算で使う。a public transport とは言わない
pay a fare / bus fares are high 運賃を払う、運賃が高い。乗り物の運賃は fare で、fee とは言わない
fund public transport 公共交通に資金を出す。設問で使われている動詞
free of charge 無料で。free よりやや説明的な言い方で、公共サービスについて料金がかからないと述べるときに使える
reduce traffic congestion 交通渋滞を減らす。congestion は不可算
commute to work by train 電車で通勤する。交通手段は by car、by train、by bus のように無冠詞で続ける
上級:バンド7以上を目指す段階
表現 意味と使いどころ
fare-free public transport 運賃無料の公共交通。この政策を指す言い方
subsidise fares / a subsidy for operators 運賃を補助する、事業者への補助金。政府が負担する仕組みを指す
be funded through taxation 税収で賄われる。財源を述べるときに使う
shift from cars to public transport 車から公共交通へ移る。modal shift とも言う
service frequency / reliability 運行本数、定時性。値段以外の条件を挙げるときに使う
fare revenue / operating costs 運賃収入、運行費用。財源の議論で対にして使う
allocate the budget to infrastructure 予算を設備に配分する。allocate は to をとる
overcrowding at peak times ピーク時の混雑。反対側の議論で使う
よくある誤り
✗
Passengers have to pay an expensive fee to travel by bus.乗り物の料金は fare。fee は入会金や手数料に使う
○
Bus fares are high, so many passengers cannot afford to travel every day.
✗
Under this policy, students could use city buses freely.freely は「自由に、制約なく」。無料でという意味にはならない
○
Under this policy, students could use city buses free of charge.
✗
The government should invest more money on the railway network.invest は in をとる
○
The government should invest more money in the railway network.
✗
Many people go to work by a car every morning.by のあとの交通手段に冠詞は付けない
○
Many people go to work by car every morning.
free と freely と subsidised の使い分け
副詞の freely は「自由に、制約なく」という意味で、無料でという意味にはなりません。無料でと言いたいときは free of charge か for free を使います。free 単独でも副詞として使えるので、travel free on buses のような形も可能です。
free は、利用者が払わないことを指します。subsidised は、政府などが費用の一部を補助していることを指し、利用者が一部を負担する場合に使われることが多い語です。クイーンズランドの50セントは後者にあたります。無料化に反対して値下げを支持する立場を書くなら、この2語を分けて使うと主張がはっきりします。
ここに並べた表現をすべて暗記する必要はありません。自分が使いやすいものを数個選び、実際の答案で使えるようにしておきましょう。
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fare や subsidise のような語を入力すると、その語と自然に組み合わさる表現を確認できます
07 モデルアンサーはどう作るか
この記事では、モデルアンサーそのものではなく、自分で答案を組み立てるための材料を整理しています。作る手順はどの回でも同じなので、5つのステップとモデルアンサーの使い方は、シリーズの総論で解説しています。
実際に書いたあと、次の3点を確かめてみましょう。
費用の出どころに触れているか: 無料にした場合に誰が負担するのかを、どこかの段落で書いているか
everyone を扱っているか: 対象を絞る案を出したなら、それが部分的に反対する立場として置かれているか
語の使い方がそろっているか: fare と fee、free と subsidised、invest in の形になっているか
同じ構造のタスクで練習したい場合は、収録タスクから交通や公共サービスを扱ったものを探せます。政府が費用を負担すべきかを問うタスクは、医療や教育のテーマでも出ます。
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08 よくある質問
公共交通の利点だけを書いたら、評価は下がりますか。
下がると決まっているわけではありません。ただ、公共交通が役に立つことは反対側も認めるので、そのままでは相手の主張と噛み合いません。利点を挙げたあと、だから政府が費用を負担すべきだと言えるのはなぜか、まで進めておきましょう。
高齢者や低所得層だけ無料にする案を書いてもよいですか。
書けます。ただし、賛成側の主張として置くと設問からずれます。全員を無料にすることには賛成しないが、対象を絞れば意味がある、という形にすると、部分的に反対する立場の材料になります。
財源の話は必ず書く必要がありますか。
書かなくても答案は成立しますが、書いておくと議論が深くなります。運賃収入が消えた分をどこから出すのかは、この案の中心にある問題です。税で賄うなら、利用しない人も負担することになる、という一文があるだけでも変わります。
クイーンズランドの50セントを、無料化の例として使えますか。
無料化の例としては使えません。50セントは値下げであって、運賃はゼロになっていません。値段を下げると利用が増えることの例として引き、無料化そのものの例にはルクセンブルクを使うと正確になります。
数字や国名は必ず入れる必要がありますか。
必須ではありません。入れる場合は、主張のあとに1文か2文で添え、数字は原則として1つに絞ります。詳しい出典を示す必要はなく、どこで何が起きたかが分かれば裏づけとして働きます。
fare と fee はどう使い分けますか。
fare は乗り物に乗るために払う運賃を指します。fee は入会金、受験料、手数料のように、サービスや手続きに対して払うお金に使います。バスや電車の料金は fare です。
全面的な賛成・反対ではない立場でも大丈夫ですか。
大丈夫です。ただし、どこまで賛成し、どこから反対するのかを明確にする必要があります。To what extent は程度をたずねる形なので、全面無料には反対するが大幅な値下げには賛成する、という立場も取れます。その範囲を導入で示しておきましょう。
このテーマの準備は、他のタスクにも使えますか。
使えます。政府が費用を負担して無料にすべきか、という論じ方は、医療、教育、水道や電気を扱うタスクでもそのまま働きます。誰が負担するのか、値段以外の条件はどうか、という2つの問いは、テーマが変わっても使える考え方です。
09 まとめ
このタスクで最初に確認したいのは、論じる対象が公共交通の価値ではなく、政府が費用を負担する全面無料化だという点です。そこを押さえたら、運賃収入が消えた分を誰が負担するのかを書き、最後に、どこまで賛成するのかを言い切ります。
利点を挙げたあと、だから政府が費用を負担すべきだと言える理由まで進める
everyone のような範囲を示す語は、そこが論点になっていないかを確かめる
無料にするか有料にするかの二択にせず、負担をどこまで下げるかの幅で考える
シリーズの共通の進め方は、総論の記事から確認できます。
タスク深掘りシリーズ
タスク深掘りシリーズ:アイデア・実例・語彙・モデルアンサーまで1問ずつ徹底解説【総論】