リーディングの練習で、目では文字を追っているのに、読み終わると何が書かれていたのか分からず、段落の冒頭に戻って読み直す。そんな経験を何度もしているなら、原因は英語力だけでなく、読んでいる最中に意識が別の方向へそれてしまうことにあるのかもしれません。
そんな方に試していただきたいのが、指先やペン先で、いま読んでいる行を追う方法です。紙の教材ではペン先、タブレットやスマートフォンでは指先、パソコンではマウスカーソルを使います。
この記事では、このシンプルな方法が、読んでいる最中に意識がそれるのを防ぎ、読み直しを減らすうえで、どのように役立つのかを解説します。特に、読みながら別のことを考えてしまいやすい方は、ぜひ試してみてください。
01目は文を追っているのに、内容が頭に入らないのはなぜか
目の動きと、意味を取る頭の働きが、途中から別々に進んでしまうからです。目は行の左から右へ、次の行へと動き続けているのに、頭は本文とは別のことを考えています。
たとえば、パッセージに都市の交通渋滞の話が出てきたとします。読みながら、自分が毎朝使っている電車の混み具合を思い出し、そこから今日の予定へと考えが移っていきます。そのあいだも目は止まらずに先へ進むので、段落の最後まで来たところで、何の話だったのかが分からなくなります。そこで段落の冒頭に戻り、もう一度読み直すことになります。
読んでいる最中に考えが本文から離れていくこの状態は、心理学ではマインドワンダリング(mind wandering)と呼ばれます。意識がそれているあいだも目は文の上を動き続けていて、その目の動きは、内容を読み取っているときの動きとは違っていた、という研究があるそうです。最後の行まで目で追っていても、内容を読み取れているとは限らないわけです。
IELTSのリーディングで何が起きるか
アカデミックのリーディングは60分で3つのパッセージを読み、40問に答えます。1つのパッセージに使える時間はおよそ20分なので、段落を1つ読み直すたびに、設問を解くための時間が減っていきます。
もう一つ厄介なのは、どこから本文を離れたのかが自分でも分からないことです。どこまで内容を追えていたのかが分からないので、段落の冒頭まで戻るしかありません。意識がそれたことに気づくのが遅いほど、戻る距離も長くなります。
この往復は、英文が難しいときにだけ起きるわけではありません。語彙も文法も分かる英文で起きるので、自分では英語力の問題だと思い込み、単語や文法の勉強ばかりを増やしてしまう人もいます。読み直しが多いと感じたら、どこで内容が分からなくなったかと同時に、読んでいるあいだに考えがどこへ向かっていたかも振り返ってみましょう。
02ADHDの傾向がある人で、読みながら意識がそれやすいのはなぜか
意識がそれやすいことに加えて、それたことに自分で気づきにくい傾向があるためと考えられています。不注意の傾向が強い人ほど、文章を読んでいる最中に意識がそれる頻度が高く、しかもそれていることに気づきにくい、という研究もあるようです。興味を持ちにくい文章を読んだときに、この差が出やすかったとも報告されています。
IELTSのリーディングでは、パッセージのテーマを自分で選ぶことができません。動物の生態、建築の歴史、経済の仕組みと、関心のない分野の文章も、同じように最後まで読む必要があります。読みながら別のことを考えやすい人にとっては、不利な条件が重なりやすい試験だといえます。
目では文を追っているのに、頭では本文に関連する別のことを考えていて、行の終わりまで来たときには何の話だったのか分からず、また戻る。これを1つの段落で何度もくり返します。本文の語がきっかけになって考えが広がっていくので、文章に関心があるときほど、かえって先へ進まないこともあります。
診断の有無とは関係なく起きる
読みながら意識がそれることは、ADHDの診断の有無にかかわらず、誰にでも起きます。違うのは起きる頻度と、気づくまでの時間です。この記事で紹介する方法は、ADHDそのものを治療するものではありません。読んでいる最中に起きる「意識がそれる」「気づくのが遅れる」という2つのことに、手の動きで対処する工夫です。
「集中しなければ」と自分に言い聞かせても、意識がそれるのを止めるのは難しいものです。それよりも、それたことに早く気づき、すぐに元の位置へ戻れる仕組みを持っておくほうが、試験の時間の中では役に立ちます。
03指先やペン先で文を追うと、何が変わるのか
意識がそれると手の動きが止まったり遅くなったりしやすいので、それたことに早く気づくきっかけになります。もう一つ、読み直すときにどこへ戻ればよいかが、指先やペン先の位置で分かります。大げさな方法ではありませんが、読み直しの多さに悩んでいる人は試してみる価値があります。
それたことに気づくまでの時間が短くなる
目だけで読んでいると、意識がそれても目は自然に先へ進んでしまいます。ペン先で行を追う場合は、手を自分で動かし続ける必要があります。考えが本文から離れると、手の動きも止まったり遅くなったりしやすくなります。止まったペン先が目に入ると、「いま、別のことを考えていた」と気づくきっかけになります。
目はペン先より先へ進みにくくなるので、意識がそれたまま目だけが行の終わりまで進む、という状態も起きにくくなります。手の動きが、目がいまどこを読んでいるかの目印になるわけです。
戻る距離が短くなる
意識がそれたことに気づいたら、ペン先が止まっている位置の少し手前から読み直します。どこまで読み進めていたのかがペン先の位置で分かるので、段落の冒頭まで戻らずに済むことが増えます。
| 場面 | 目だけで読む場合 | 指先・ペン先で追う場合 |
| 意識がそれたとき | 目は先へ進み続ける | 手の動きが止まるか遅くなる |
| それたことに気づくきっかけ | 段落の最後で内容が分からないと気づく | 止まったペン先が目に入る |
| 読み直すときに戻る位置 | 段落の冒頭まで戻ることが多い | ペン先が止まった位置の少し手前 |
指で文を追う読み方は、小さい子どもが文字を覚えるときの読み方のように思われるかもしれません。ただ、意識がそれやすい人にとっては、目がいま読んでいる位置を手で支える工夫になります。誰かに見せるための読み方ではないので、自分にとって読み直しが減るかどうかで判断すれば十分です。
04画面と紙では、どうやって文を追えばよいか
紙ならペン先(紙の試験では鉛筆の先)、タブレットやスマートフォンなら指先、パソコンならマウスのカーソルで、いま読んでいる行を追います。IELTSには紙の試験とコンピューターで受ける試験があるので、本番と同じ形で練習しておくと、試験の当日も同じ動きで読むことができます。
| 読むもの | 何で追うか |
| 紙の問題集・紙の試験 | ペン先 |
| パソコン・コンピューター試験 | 指先またはマウス |
ペン先で追う手順
紙で読むときの手順を例にします。画面で読むときも、ペン先を指先やカーソルに替えれば同じです。
| ステップ | すること | 確かめること |
| 1 | 読み始める行の最初の語の、すぐ下にペン先を合わせる | ー |
| 2 | 読む速さに合わせて、ペン先を左から右へ動かす | ペン先が目より先へ行き、手に引っぱられて読んでいないか |
| 3 | 行の終わりまで来たら、次の行の頭へペン先を移す | 行を飛ばしたり、同じ行をもう一度追ったりしていないか |
| 4 | ペン先が止まっていたら、その少し手前から読み直す | 段落の冒頭まで戻らずに済んでいるか |
ステップ2で、ペン先を速く動かして読む速さを上げようとしないことがポイントです。ペン先のほうが目より先に進むと、目がそれを追いかけるだけになり、内容が頭に入らないまま行の終わりに着いてしまいます。ペン先は、目がいま読んでいる位置についていくくらいの速さで十分です。
下線を引くこととは分けて考える
ペン先で追うときは、紙に線を引かずになぞるだけにします。読んだところすべてに線を引くと問題用紙が線だらけになり、あとで設問の該当箇所を探すときに、どこが大事な語なのかが分からなくなります。下線は、年号や人名、設問に関わりそうな語のように、あとで戻ってきたい箇所にだけ引くのがおすすめです。
コンピューター試験でも、本文の語句を選んでハイライトする機能があります。行を追うことと、大事な語をハイライトすることは、紙のときと同じように分けておくと、画面が見やすいまま読み進めることができます。
05どの場面で使い、どの場面では使わないか
1文ずつ意味を取りながら読む場面で使い、語を探して目を速く動かす場面では使いません。IELTSのリーディングでは、同じパッセージの中でも読み方を切り替えるので、ペン先で追うかどうかもそれに合わせます。
| 読み方 | ペン先で追うか | 理由 |
| 設問の該当箇所を見つけて、前後の文を読み込む | 追う | 1文ずつ意味を取る必要があり、意識がそれると答えを取り違えやすい |
| 長い段落や、構文が入り組んだ文を読む | 追う | 途中で別のことを考え始めると、どこまで読めていたかが分からなくなる |
| 年号・人名・数字を探す(スキャニング) | 追わない | 1行ずつ追うと目の動きが遅くなる |
| 段落の最初の文だけを読んで流れをつかむ | どちらでもよい | 読む量が少ないので、意識がそれても戻る距離が短い |
リーディング
IELTSリーディングのスキミングとスキャニング:どこを目で追うかの具体手順
遅くなるように感じたら
慣れないうちは、ペン先を動かす分、読むのが遅くなったように感じるかもしれません。それでも、段落の冒頭まで戻って読み直す回数が減れば、1つのパッセージにかかる時間が、全体としては短くなることもあります。比べるときは読む速さだけを見ずに、読み直しを含めた時間で比べてみましょう。
練習で試してから本番で使う
本番でいきなり使い始めると、手の動きに気を取られて、かえって読みにくくなるおそれがあります。問題集のパッセージで、ペン先で追う場合と追わない場合の両方を試し、段落の冒頭に戻った回数と、1パッセージにかかった時間を比べてみましょう。読み直しが減るようなら、本番も同じ方法で読めばよく、変わらないようなら、無理に続ける必要はありません。
練習するときの環境も、集中のしやすさに関わります。手もとにスマートフォンがある、通知が鳴るといった状況では、ペン先で追っていても別のことを考え始めやすくなります。
リーディング
集中できる環境で解いていますか?:最適な学習環境の作り方と推奨される練習時間
06よくある質問
指やペン先で文を追うと、読むのが遅くなりませんか。
慣れないうちは遅くなったように感じるかもしれません。ただ、段落の冒頭まで戻って読み直す回数が減れば、1つのパッセージにかかる時間は、全体としては短くなることもあります。読み直しを含めた時間で比べると、違いが分かりやすくなります。
ADHDと診断されていなくても、試してみる意味はありますか。
あります。読みながら意識がそれることは、診断の有無にかかわらず誰にでも起き、違うのは頻度と気づくまでの時間です。読み直しが多いと感じているなら、一度試してみる価値があります。
コンピューターで受けるIELTSでも、この読み方は使えますか。
使えます。パソコンの画面では、マウスのカーソルを行に沿って動かせば、ペン先と同じ役割になります。カーソルは文字に重ねすぎないように動かします。本番と同じ形で、練習のときからカーソルで追っておけば、当日の動きも練習と変わらずに済みます。
紙の試験では、ペンで線を引きながら読めばよいですか。
文を追うときは、線を引かずに行のすぐ下をなぞるだけにします。読んだところすべてに線を引くと、あとで大事な語を探しにくくなります。下線は、年号や人名など、あとで戻ってきたい箇所にだけ引くとよいでしょう。
スキャニングのときも、ペン先で1行ずつ追ったほうがよいですか。
スキャニングでは追いません。年号や人名を探すときに1行ずつ追うと、目の動きが遅くなります。ペン先で追うのは、該当箇所の前後を読み込むときや、長い段落を読むときのように、1文ずつ意味を取る場面です。
指で文を追うのは、子どもっぽい読み方ではありませんか。
意識がそれやすい人にとっては、目がいま読んでいる位置を手で支える工夫です。人に見せるための読み方ではないので、自分の読み直しが減るかどうかで判断して構いません。
本番でいきなり試してもよいですか。
練習で試してからのほうが安全です。慣れていないと、手の動きに気を取られてかえって読みにくくなるおそれがあります。問題集でペン先で追う場合と追わない場合の両方を試し、読み直しの回数と時間を比べてから決めるとよいでしょう。
07まとめ
最後の行まで目で追っていても、内容が頭に入っているとは限りません。読みながら別のことを考えてしまう人にとって大切なのは、意識がそれるのを無理に止めることより、それたことに早く気づき、すぐ元の位置へ戻れるようにしておくことです。指先やペン先で文を追う読み方は、そのための手軽な方法の一つです。
- 意識がそれているあいだも、目は文の上を動き続ける
- ペン先で追うと、意識がそれたときに手が止まりやすく、気づくきっかけになる
- 読み直すときは、ペン先が止まった位置の少し手前から読めばよい
- 紙はペン先、タブレットは指先、パソコンはカーソルで追う
- 1文ずつ意味を取る場面で使い、スキャニングでは使わない
- 練習で読み直しの回数と時間を比べてから、本番で使うか決める
読み直しが多いのは英語力が足りないからだと思っていた人も、一度ペン先で行を追いながら読んでみるといいでしょう。どこで本文から離れているのかを、手の動きを手がかりに確かめることができます。