多くの人は、IELTS対策として「何をすればスコアが上がるか」を考えるのが普通です。ただ、情報があふれるこの時代、新しい教材や勉強法を探す前に、いまの勉強の中に「やめたほうがよいもの」がないかを考えてみることも、時には重要です。特にIELTS対策に使える時間が限られているなら、なおさらです。模擬試験を解き続けるが復習が追いついていない、エッセイはたくさん書いているがフィードバックを受けられていない。このような状況では、時間をかけてもスコアは思うように上がりません。時には断捨離も必要です。
01IELTSでスコアが伸びにくくなる勉強とは
次のような勉強は、時間をかけているわりにスコアが上がりにくくなります。
- 時間を計った演習を一度もしないまま、本番を迎える:設問の形式に慣れる段階では、時間を気にせず根拠を確かめながら解くのは有効です。ただ、納得できるまで読んで答えを出す解き方しかしていないと、1問にどれだけかけてよいのかの感覚が身につきません。本番で最後の設問を残してしまうのは、この解き方に慣れているときです。
- エッセイを書くだけで、添削を受けない:同じ誤りを繰り返したまま本数だけが増えます。本人には10本書いた実感が残るので、進んでいないことに気づきにくくなります。
- 語彙の練習を、単語帳だけで終える:単語帳そのものは必要ですが、覚えた語をライティングやスピーキングで使わないままだと、意味は分かるのに自分では出てこない語が増えていきます。
- 得意な技能を何週間も放置する:オーバーオールは4技能の平均です。ライティングを0.5上げても、その間にリーディングが0.5落ちれば、努力の量に対してスコアが上がりません。
- 受験日を決めないまま勉強を始める:締め切りがないので、いつでも先に延ばせます。仕上げの練習を始めるきっかけも来ません。
- 気分が乗った日にだけ、苦手な技能をやる:苦手な技能ほど気分は乗りません。結果として、いちばん手を入れるべきところが後回しになります。
- スコアが思ったより低いたびに、教材を入れ替える:1冊を最後までやり切っていないので、どの教材が自分に合うのかも判断できないまま冊数だけが増えます。
- 本番の数日前に、新しい問題集を開く:知らないことの量に驚いて自信をなくす一方で、その内容が当日の得点になる見込みは高くありません。
- 勉強時間や単語帳の周回数を記録して満足する:1日に何時間勉強したかをグラフにする、単語帳を何周したかを数える。記録が伸びていくと進んでいる気がしますが、残っているのはかけた量で、何ができるようになったかではありません。グラフを整える時間も、そのぶん勉強から削られています。
- 本番や模擬試験を、受ける回数で乗り越えようとする:受けるたびにスコアは出ますが、どの設問で何を落としたのかを見直さないまま次の回を申し込むと、同じところで同じように失点します。受けた回数が増えても、見直しをしていなければ前回と同じ試験をもう一度受けているのと変わりません。
- 仕事が忙しい週は、勉強をまるごと休みにする:忙しさが落ち着いてから再開するつもりでいても、落ち着く時期はなかなか来ません。忙しい週に何を残して何を削るかを決めていないと、その週の勉強はゼロになり、翌週も同じ理由で休むことになります。
- 何を優先するかを決めないまま、全部に少しずつ手をつける:4技能も語彙も文法もやろうとすると、どれも少しずつ触っただけで1週間が終わります。いまスコアをいちばん下げているのがどの技能なのかを決めていないと、時間の配分も決まりません。
どれも、やっている本人には勉強に見えます。悪い勉強法として説明されると心当たりがなくても、こうして並べてみると、自分の1週間の中に1つか2つは見つかるのではないでしょうか。
02なぜこういう勉強をしてしまうのか
まじめに勉強している人ほど、こうした勉強に時間を使いがちです。さぼっているからではなく、理由が2つあります。
「勉強した」という手応えが残るから
単語帳はページが進みます。問題集は解いた数が残ります。一方、エッセイを1本書いて添削を待つあいだ、目に見えて増えるものはありません。スピーキングを録音して聞き返す作業にいたっては、うまく話せていない自分を確認するところから始まります。同じ1時間なら、手応えのあるほうを選びたくなるのが自然です。勉強時間のグラフや単語帳の周回数を記録したくなるのも、受験の回数を重ねたくなるのも、同じ理由です。数字が増えていくのを見ると、それだけで前に進んでいる気持ちになれます。
新しい教材を足したほうが安心だから
スコアが伸びないと分かったとき、いまの勉強のどこを削るかを考えるのは面倒です。新しい教材を1冊買うほうがはるかに早く、しかも何かをした気持ちになれます。こうして、やめるべきものが残ったまま、やることだけが積み上がっていきます。
では、なぜ「やめること」から考えるのか
IELTSには、これをやれば必ず7.0になるという勉強法はありません。同じ教材で伸びる人と伸びない人がいますし、必要な練習は現在のスコアと弱点によって変わります。ところが、やめたほうがよいもののほうは、かなりはっきりしています。時間を計った演習が一度もないまま本番を迎えることにしても、添削を受けないエッセイを書き続けることにしても、そのままでよい理由を挙げるのは難しいでしょう。
足すほうの判断には時間の確保がついてまわりますが、やめる判断には準備が要りません。今週の予定から1つ削るだけで、その分の時間が別のことに使えます。学習時間が限られている社会人や高校生ほど、こちらのほうが動かしやすいでしょう。
03「逆から考える」とはどういうことか
目標に近づく方法を考える代わりに、どうすれば目標から遠ざかるかを考えてみる。こうした考え方を「逆から考える」と言います。
投資家のチャーリー・マンガーが広めた考え方です。1986年6月13日、ロサンゼルスの私立中等学校ハーバード・スクールの卒業式で行ったスピーチで、マンガーは幸福な人生を送る方法ではなく、確実に惨めな人生を送る方法のほうを並べてみせました。そのスピーチの中で、数学者ヤコビが繰り返していた言葉として Invert, always invert(逆にせよ、常に逆にせよ)を引用しています。
IELTSに当てはめると、7.0を取る方法を探す前に、7.0を逃す原因のほうを書き出すことになります。01で挙げたのが、その一覧にあたります。あとは、心当たりのあるものから外していくだけです。
締め切りから逆算するのとは別の話
出願の締め切りから受験日と学習期間を割り出すのは、時間をさかのぼる作業です。ここで言う逆から考えるほうは、時間ではなく結果を裏返します。目標を達成した状態ではなく、目標を落とした状態を先に想定します。
2つは対立しません。締め切りから逆算して受験日を決めたうえで、その日程がうまくいかなくなるとしたら何が原因かを挙げておくと、計画の弱いところが先に分かります。
04試験当日にやめたいことは何か
同じ考え方は、試験当日にも使えます。当日にできることは限られていますが、それでも自分の回答を自分で崩してしまう場面はいくつもあります。
- リスニングで、聞き逃した1問を引きずって、次の設問まで落とす
- リーディングで、最初のパッセージを丁寧に読みすぎて、3つ目に時間を残さない
- ライティングで、タスク2の設問を読み違えたまま40分書き切る
- ライティングで、下書きを作り込みすぎて、清書の途中で時間切れになる
- スピーキングで、準備してきた表現を、質問と関係のない場所で使う
- 前日の夜に新しい教材を開いて、知らないことの量に驚く
いちばん重いのは、設問の読み違い
この中で結果への影響が大きいのは、タスク2の設問を読み違えたまま書き切ることです。ライティングは全体で60分で、IELTS公式サイトの試験形式の説明には、タスク1は20分を、タスク2は40分を超えないようにと書かれています(2026年9月2日時点)。読み違えていれば、その40分で書いたものはTask Responseの観点で評価が下がります。文法や語彙をどれだけ正確に書いても、聞かれていないことに答えている状態は変えられません。
タスク2に使う時間のうち最初の数分を設問の読み取りとプランニングに使えば、そのぶん書く時間は短くなります。それでも、書き終えてから方向のずれに気づく事態は避けられます。
| やめたいこと | 代わりにすること |
| 聞き逃した1問に戻ろうとする | 分からなかった設問はいったん飛ばし、いま読まれている箇所に戻る |
| 最初のパッセージを丁寧に読みすぎる | パッセージごとに使う時間の上限を決めてから始める |
| 設問を読み違えたまま書き切る | 書き始める前に、何が問われているのかを自分の言葉で言い直す |
| 準備した表現を関係のない場所で使う | 質問に直接答えてから、そのあとで説明を足す |
| 前日に新しい教材を開く | 前日に見るものを、1週間前までに決めておく |
05技能ごとに、何をやめて何をするか
やめたいことの中身は、技能によって変わります。
| 技能 | やめたいこと | 代わりにすること |
| リスニング | 答え合わせだけで終える | 聞き取れなかった原因が、語を知らないためなのか、音が結びついていないためなのかまで確認する |
| リーディング | 時間を計らない演習だけで終える | パッセージごとの時間配分を決めて解く回を作り、本文のどこが根拠だったのかを確認する |
| ライティング | 書きっぱなしにする | 添削を受けて、指摘された箇所を自分で書き直すところまでを1本と数える |
| スピーキング | 模範解答を暗記する | 自分の言葉で答えて録音し、聞き返して言い直す |
得意な技能ほど、放置に気づきにくい
得意な技能は、苦手な技能に時間を割いているあいだに練習量が落ちます。数週間触っていない状態になっていても、得意だという実感のほうが残っているので気づきにくいところです。オーバーオールは4技能の平均ですから、伸ばした分と落ちた分が差し引きされれば、勉強した量に対してスコアは上がりません。
IELTS総合対策
リスニング・リーディングで足もとをすくわれないために:バランスよく実力を維持する練習習慣
06自分の「やめること」はどう決めるか
ここまでに挙げたのは一般的な例なので、そのままでは自分の弱点と一致しません。自分の1か月から探したほうが、外すべきものがはっきりします。
| ステップ | すること | 確かめること |
| 1 | 直近1か月でやった勉強を、思い出せる範囲で書き出す | きれいにまとめようとして手が止まっていないか。思い出せないものは、記録が残っていないということ |
| 2 | その中から、やった手応えのわりに結果につながっていないものを探す | 時間を計った演習が一度もない技能、添削を受けていない回答、直近4週間で触らなかった技能があるか |
| 3 | 今週やめるものを1つ決める | やめられたかどうかを週末に判定できる書き方になっているか |
1つだけでは少なく見えるかもしれません。ただ、やめると決めたことを1週間続けるほうが難しいものです。もたずに戻ってしまうなら、決めた対象が大きすぎます。「模擬試験は必ず時間を計る」ではなく「今週の1回だけは時間を計って解く」まで小さくすれば、週末に判定できます。
判断がつかないものは、無理に外さなくて構いません。残しておいて、次の模擬試験の結果を見てから決めるほうが安全です。
記録が残っていないと、探しようがない
ステップ2で記憶だけを頼りにすると、都合の悪いものが抜け落ちます。何をいつやったのかを残しておくと、その週に触らなかった技能がひと目で分かります。ただし、残すのは勉強した時間や単語帳の周回数ではありません。どの技能で何を解き、何問正解して、どこで間違えたのかのほうです。リスニングとリーディングについては、演習の記録を残せるツールを公開しています。
IELTS学習アプリ
LR学習記録ツール
リスニングとリーディングの演習結果を記録し、正答数の推移と練習の間隔を確認できます
見直すのは、模擬試験を受けたあと
毎週やり直すと、書くこと自体が目的になります。見直すのは模擬試験や本番を受けたあとがちょうどよいでしょう。結果を見た直後は、何が足を引っぱったのかをいちばん具体的に思い出せます。そのときに、前回やめると決めたものが本当にやめられているか、新しく増えたものはないかを書き足していきます。
なお、やめるかどうかの判断とあわせて、どこまでやったら切り上げるかも決めておくと、練習に使う時間が偏りにくくなります。技能ごとの切り上げどきは、次の記事で詳しく解説しています。
IELTS総合対策
あえて完璧を目指さない選択:リスニング・リーディング・ライティングでの切り上げどき
07よくある質問
やめることばかり考えたら、勉強量が減りませんか
やめた分の時間は別の練習に使えるので、総量が減るとは限りません。ただし、思いついたものを片端から削ると残るものがなくなります。外すのは、やった手応えのわりに結果につながっていないと自分で確認できたものだけにします。
添削を受けなければ、独学ではIELTSに対応できないということですか
独学が成り立たないという意味ではありません。ただ、自分のエッセイのどこが評価を下げているかを自分で判断するのは難しく、同じ誤りが残りやすくなります。毎回でなくてもよいので、他人の目が入る回を定期的に作っておくとよいでしょう。
模擬試験は毎回、時間を計らないといけませんか
毎回である必要はありません。設問の形式に慣れる段階では、時間を気にせず根拠を確認しながら解くほうが身につきます。避けたいのは、時間を計った演習が1回もないまま本番を迎えることです。
試験の直前でもこの考え方は使えますか
使えます。直前期は新しいことを足す時間がないため、やめる判断のほうが実行しやすくなります。前日に新しい教材を開く、直前に問題集を入れ替えるといった項目を先に外しておくとよいでしょう。
08まとめ
スコアが伸び悩んだときは、新しい教材を探す前に、やめることを探してみましょう。時間を計った演習が一度もないまま本番に向かっていないか、得意な技能を何週間も放置していないか。まずはこのあたりから確かめてみるといいでしょう。
何をすればよいかが分からないときでも、何をやめるかなら決められます。まずは今週、やめるものを1つ選んでみましょう。
- 新しい教材を足す前に、いまの勉強からやめるものを探す
- やめるものはまず1つ。週末に判定できる大きさまで小さくする
- 見直すのは模擬試験や本番のあと。結果を具体的に思い出せるうちに書き足す