「英語で話すときは相手の目を見て」と言われても、人の目をじっと見ながら話すのは、日本で育った私たちにとって落ち着かないものです。IELTSのスピーキングでは試験官と向かい合って11分から14分ほど話すので、視線をどこに向ければいいのかが気になる人もいるでしょう。
目を合わせることは、スピーキングの採点項目には入っていません。この記事では、視線が評価とどう関わるのか、日本と欧米で目を合わせることの受け取られ方がどう違うのか、目を合わせるのが苦手な人が試験までにどう慣れていけばよいのかを解説します。
目次
スピーキング試験で目を合わせないと評価は下がるのか
欧米と日本では、目を合わせることの意味はどう違うのか
考えているときに目をそらすのは失礼なのか
視線を気にしすぎると、話し方のどこに影響が出るのか
目を合わせることにどう慣れればよいか
よくある質問
まとめ
01 スピーキング試験で目を合わせないと評価は下がるのか
試験官の目を見て話さなかったこと自体で、スピーキングの評価が下がることはありません。スピーキングの採点項目は Fluency and Coherence、Lexical Resource、Grammatical Range and Accuracy、Pronunciation の4つで、IELTS公式の Band Descriptors には、視線や表情、姿勢についての記述はありません。
スピーキングの試験はすべて録音されていて、再採点(Enquiry on Results)を申請した場合も、上級試験官は録音された発話をもとに評価を見直します。評価の材料になっているのは、話した英語そのものです。
採点されるもの
話の流れとつながり(Fluency and Coherence)、語彙(Lexical Resource)、文法の幅と正確さ(Grammatical Range and Accuracy)、発音(Pronunciation)の4つです。どこを見て話したかは、このどれにも含まれていません。
試験官のほうも、受験者の顔をずっと見ているわけではありません。決められた質問を読み上げ、時間を確かめながら試験を進めるため、手元に目を落とす場面がたびたびあります。その様子が目に入っても答えの出来とは関係がなく、あまり表情を変えずに淡々と進めるのも、どの受験者にも同じ条件で試験を行うためとされています。
スピーキング
スピーキング試験で試験官は何を考えているか?:緊張の正体は試験官との関係性の誤解にある
ただし、視線が話し方に影響して、それが採点項目に関わる場面はあります。ずっと下を向いたまま話すと声がこもりやすくなりますし、目を合わせようと意識しすぎて話の筋を見失えば、話の流れが途切れます。視線の扱い方しだいで、採点される英語の出来が変わることもあります。
02 欧米と日本では、目を合わせることの意味はどう違うのか
英語圏では、会話中に相手と目を合わせることが、話を聞いている、関心を持っているというしるしとして受け取られやすい傾向があります。一方の日本では、目上の人の目をじっと見ることを控えるのが礼儀とされてきました。日本のビジネスマナーでは、相手の目ではなく、ネクタイの結び目やのどもとのあたりを見るように教えられることもあります。
この違いは、感じ方のレベルでも確かめられています。2013年に PLOS ONE に掲載された Akechi らの研究では、日本とフィンランドの参加者に、無表情の顔の写真を見せました。すると日本の参加者は、視線がこちらを向いている顔を、フィンランドの参加者よりも「怒っている」「近づきにくい」「不快だ」と評価したそうです。同じ論文では、日本の文化では目を合わせないことが敬意や遠慮の表れとされる、という先行研究も紹介されています。
試験官と目を合わせるのが落ち着かないのには、育ってきた文化の中で身についた感覚も関わっていると考えられます。英語力や性格だけの問題とは言い切れません。無理に消そうとするより、そういう感覚があると知ったうえで、試験の場でどう振る舞うかを決めておくほうが現実的です。
場面 日本で育った人が感じやすいこと 英語圏で受け取られやすいこと
相手の目を見て話す 相手に圧をかけているようで落ち着かない 話に関心を持っているしるし
目上の人と話す 目を伏せ気味にするのが丁寧 相手が誰でも、ときどき目を合わせるのが自然
ほとんど目を合わせない 控えめで礼儀正しい 自信がない、話に関心がない、と受け取られる場合がある
ただ、英語圏の人が会話のあいだずっと相手の目を見つめているわけでもありません。会話中の視線を観察した Kendon の1967年の研究では、話し手は話し始めるときに相手から目をそらし、言い終わりに近づくと相手に目を向ける傾向があると報告されています。話を聞いている側のほうが、話している側よりも相手を見ている時間が長いとも言われています。
英語圏の会話でも、話している最中に視線を外したり戻したりするのは珍しいことではありません。
03 考えているときに目をそらすのは失礼なのか
答えを考えている最中に目をそらすのは、失礼には当たりません。母語で話しているときにも多くの人がしている動きで、考える作業を助けている可能性も指摘されています。
Glenberg らが1998年に Memory & Cognition に発表した研究では、ある程度難しい質問をされると、人は相手から目をそらす頻度が上がることが確かめられました。さらに、目をそらした状態で答えたほうが、答えの正確さが上がったそうです。研究者たちは、目に入る情報から離れることで、頭の中で考える作業に集中しやすくなるのではないかと説明しています。
IELTSのスピーキングで言えば、Part 3 の抽象的な質問がこれに当たります。Why do you think people ... ? や How might this change in the future? のような質問に答えるとき、視線が上や横に外れるのは自然なことです。反対に、目を合わせたまま考えようとすると、試験官の顔から入ってくる情報に注意が向き、かえって考えがまとまりにくくなるかもしれません。
気になるのは、むしろ目をそらしているあいだの沈黙かもしれません。考える時間がほしいときは、それを英語で一言伝えてから視線を外すと、沈黙の理由が相手に伝わります。
That's an interesting question. Let me think about it for a moment.
I haven't really thought about that before, but I'd say ...
How can I put this ... ?
こうした表現はそれ自体で評価が上がるものではありませんが、考えているあいだも会話が続いていることを示せます。言い回しの幅を広げたい人は、次の記事で20の表現を紹介しています。
スピーキング
IELTSスピーキングのフィラー表現20選:Um・Well以外にも使える言い換え集
04 視線を気にしすぎると、話し方のどこに影響が出るのか
視線そのものは採点されませんが、視線を気にしすぎると、採点される英語のほうに影響が出るかもしれません。たとえば次のような場面です。
4-1 目を合わせることに気を取られて、話の筋を見失う
「英語では目を見て話すものだ」と思い込んでいると、答えている最中も「目をそらしてはいけない」と自分に言い聞かせることになります。話す内容を組み立てながら、慣れない視線にも耐えるという二つの作業を同時にしているので、途中で何を言おうとしていたのかが分からなくなりがちです。
言いかけた文をやめて言い直したり、同じ語をくり返したりする回数が増えると、Fluency and Coherence の評価に関わります。目を合わせることを優先して話の流れが崩れるなら、視線は外したままでかまいません。
4-2 試験官の表情から手応えを読もうとする
試験官の顔を見ていると、うなずきや笑顔が返ってこないことに気づきます。日本語の会話では、相づちがないのは「伝わっていない」「つまらない」のサインになりやすいので、答えが悪かったのではないかと焦ってしまう人がいます。
01で見たとおり、試験官の表情があまり変わらないのは、答えへの反応とは限りません。試験官の表情から答えの出来は読み取れないと割り切っておくと、表情に振り回されずに済みます。
4-3 Part 2 でメモを見たまま、下を向いて話し続ける
Part 2 では1分間の準備時間にメモを書き、そのメモを見ながら話すことができます。目を合わせるのが苦手な人ほど、メモに目を落としたまま2分間を話しきろうとします。
メモを見ること自体は問題ありません。気をつけたいのは、下を向いたまま話すと声がこもりやすく、メモに書いた語を読み上げるだけの話し方になりやすいことです。声が聞き取りにくくなれば Pronunciation の評価に、言葉がつながらなくなれば Fluency and Coherence の評価に関わる可能性があります。メモは話す順番を確かめるためにときどき見て、話すときは顔を上げる、という使い分けを意識しておきましょう。
スピーキング
IELTSスピーキングPart 2の準備1分:メモに何を書き、何を書かないか
05 目を合わせることにどう慣れればよいか
目を合わせることに慣れるには、目を向けるタイミングと場所を決めて、少しずつ回数を増やしていくと取り組みやすくなります。いきなり目を見続けようとしなくてもかまいません。試験の場で求められるのは、要所で顔を上げられることです。
5-1 練習で少しずつ慣れていく
次の順に進めると、無理なく慣れていけます。1つのステップができるようになったら、次のステップに進みます。
ステップ すること 確かめること
1 目と目のあいだや鼻のあたりを見る その位置なら落ち着いて話せるか
2 質問を聞いているあいだだけ、相手の顔を見る 質問の内容を最後まで聞き取れているか
3 話し始めは視線を外してよいことにして、答えを言い終えるときに顔を上げる 答えの終わりごとに顔が上がっているか
4 練習をスマートフォンで録画して見返す 下を向いている時間が長すぎないか、声がこもっていないか
5 レッスンや友人との会話など、人と向かい合う場で話す 相手がいても、ステップ3の動きができるか
目と目のあいだや鼻のあたりを見る方法は、目を合わせるのが苦手な人向けによく紹介されるものです。会話の距離なら、相手からは目を見ているのとほとんど区別がつきません。
ステップ3は、02で紹介した英語圏の会話の視線の動きとも重なります。話し始めに目をそらし、言い終わりに相手を見る。この動きができれば、試験の場で視線が不自然に見えることは少ないはずです。
ひとりで練習するときは、録画がいちばん手軽です。話している自分を外から見ると、思っていた以上に下を向いていることや、目線を上げた瞬間に言葉が止まっていることに気づけます。
5-2 試験当日の視線の目安
試験の場面ごとに、視線の目安を決めておくと迷わずに済みます。どれも、このときは顔を上げる、というタイミングの目安です。
場面 視線の目安
入室とあいさつ あいさつと名前の確認のときは、試験官の顔を見る。短いやり取りなので、ここで一度顔を上げておくと落ち着きやすい
Part 1 質問を聞くときは試験官を見る。答えの途中で視線が外れてもよく、言い終えるときに顔を戻す
Part 2(準備の1分) キューカードとメモに集中する
Part 2(話す2分) 話す順番を確かめるときにメモを見る。キューカードの項目が切り替わるところで顔を上げる
Part 3 考えるときは視線を外してよい。考えがまとまって話し始めたら、ときどき顔を上げる
当日にどうしても目を合わせられなかったとしても、それで評価が下がるわけではありません。視線がうまくいかなかったことを引きずらず、次の質問に気持ちを切り替えましょう。緊張そのものとの付き合い方は、次の記事で詳しく扱っています。
スピーキング
スピーキング試験の緊張を味方にする方法:適度な緊張がパフォーマンスを高める仕組み
06 よくある質問
IELTSのスピーキングで試験官の目を見ないと、評価は下がりますか。
下がりません。採点項目は Fluency and Coherence、Lexical Resource、Grammatical Range and Accuracy、Pronunciation の4つで、Band Descriptors には視線についての記述がありません。再採点も試験の録音を聞いて行われるので、評価の材料になるのは話した英語です。
試験官がずっと手元を見ているのは、答えがよくなかったからですか。
答えの出来とは関係ありません。試験官は決められた質問を読み上げ、時間を確かめながら試験を進めるので、手元に目を落とす場面がたびたびあります。表情があまり変わらないのも、どの受験者にも同じ条件で試験を行うためとされています。
答えを考えるときに上や横を見てしまうのは、失礼ですか。
失礼には当たりません。難しい質問をされると目をそらす頻度が上がり、目をそらしたほうが答えの正確さが上がったという研究もあります。沈黙が気になるなら、Let me think about it for a moment. のように一言伝えてから考えるとよいでしょう。
目を合わせるのがどうしても苦手な場合、どこを見ればよいですか。
相手の目と目のあいだや、鼻のあたりを見る方法がよく紹介されています。会話の距離なら、相手からは目を見ているのとほとんど区別がつきません。まずはその位置で、答えを言い終えるときに顔を上げることから始めると取り組みやすくなります。
Part 2 ではメモを見ながら話してもよいですか。
メモを見ながら話してかまいません。ただ、下を向いたまま話し続けると声がこもりやすく、メモの語を読み上げるだけの話し方にもなりがちです。話す順番を確かめるときにメモを見て、キューカードの項目が切り替わるところで顔を上げるとよいでしょう。
欧米の人は、会話中ずっと相手の目を見ているのですか。
見つめ続けているわけではありません。会話中の視線を観察した研究では、話し手は話し始めるときに目をそらし、言い終わりに近づくと相手を見る傾向があると報告されています。目をそらしたり戻したりをくり返すのが、英語の会話でも自然な視線の動きです。
視線に慣れる練習は、ひとりでもできますか。
できます。答える練習をスマートフォンで録画して見返すと、下を向いている時間の長さや、顔を上げた瞬間に言葉が止まる癖に気づけます。そのうえで、レッスンや友人との会話など、人と向かい合う場でも同じ動きを試しておくと安心です。
07 まとめ
IELTSのスピーキングで採点されるのは話した英語で、目を合わせたかどうか自体は採点項目に入っていません。目を合わせるのが落ち着かないのは、日本で育つなかで身についた自然な感覚です。英語圏の会話でも、話している人は視線を外したり戻したりしています。
気をつけたいのは、視線を気にするあまり、採点される英語のほうが崩れてしまうことです。試験までに、顔を上げるタイミングを決めて練習しておきましょう。
視線・表情・姿勢は、スピーキングの採点項目に含まれていない
試験官が手元を見たり表情を変えなかったりするのは、答えの出来とは関係ない
考えるときに目をそらすのは自然な動きで、失礼には当たらない
目を合わせることに気を取られて、話の筋を見失わないようにする
Part 2 ではメモを見てよいが、話すときは顔を上げて声がこもらないようにする
目と目のあいだを見る、答えの終わりで顔を上げる、から始めて少しずつ慣れる